第4話「キラストリエの祈り」 - 1
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
タリーサへの執拗なしごきは続いていた。
彼女は民衆の目を避けるためと称され、練習場から離れた屋内の一室に移された。そこではイーサンとシェリルとの組手や、筋力トレーニングと称した重い荷物運びを日々課せられていた。
「ううう…」
タリーサは今日も打ち倒され、冷たい床にうずくまる。
「鎧を壊さないように痛めつけるのも結構大変なんだぜ、俺らの苦労分かってくれよ、タリーサ?」
イーサンが冷笑を浮かべてタリーサを軽く蹴りつける。
シェリルも楽しそうに近づき、タリーサの背中を無慈悲に踏みつけた。
「ほらタリーサ、傷を治すから動かないでね。『天より降りそそぐ光、聖なるキラストリエの御名によりてこの者を包め、傷を癒し、魂に安らぎを与えたまえ』」
シェリルの祈りが響くと、青白い光がタリーサを包み、顔のアザや切り傷が徐々に消えていった。
肉体は癒えても、精神は疲弊し続けていた。イーサンたちは恐怖を与えることを目的に、タリーサをじわじわと追い詰めていたのだ。
「はい、治った。さぁ、外で貴女を待ち侘びてる人たちが沢山いるわよ。行きましょう!」
シェリルはタリーサを無理やり立たせ、外に連れ出す。笑顔で民衆にタリーサを示すと、歓声が周囲に広がり、人々はさらに集まった。
(こんな陰湿な茶番に屈するわけにはいかない…)
気丈に心を保つタリーサだが、本人も気づかないところで精神はどんどん削られていた。
ある日の朝、妹アンナはぼんやりと朝食をとる姉の異変に気づく。
「お…姉様?」
タリーサは虚ろな視線のまま、黙々と口に運び続けている。頬は心なしかこけて見えた。
「お姉様!大丈夫ですか?」
アンナの大きな声にようやくタリーサは気づき、振り返る。
「え…う、うん。大丈夫だよ、なんで?」
その曖昧な返事に、アンナは聖騎士団で何か深刻なことが起きていると悟った。
◇ ◇ ◇
スカーレット枢機卿は広間にある漆黒の椅子に背を預け、淡々と報告書を目で追っていた。
羊皮紙をなぞる彼女の細長い指先の動きに、控える秘書官たちは息を潜めていた。その冷静な表情と威厳は、広間全体を緊張で包み込んでいた。
「スカーレット様、いま話題になっている聖騎士団の新人、タリーサ・セルヴィオラを視察しませんか?」
沈黙を破ったのは若い秘書官のアンナだった。その声に他の秘書官たちは一瞬動揺し、互いに視線を交わした。アンナはまだ経験が浅く、無邪気に提案したことがスカーレットの気に触れないか心配だった。
スカーレットはふと目を上げた。
アンナの提案に特別な興味はなかったが、スケジュールが空いていたこともあり、少しの気晴らしとして受け入れた。政治や教会の任務に追われていた彼女にとって、新しい話題に触れることは珍しかったのだ。
「何やらお騒がせな娘が入団したらしいわね。たまには聖騎士団の様子も見ておきましょうか。いいわよ」
◇ ◇ ◇
その日の午後、スカーレットとアンナは聖騎士団の練習場を訪れた。
王宮横に広がる練習場には、すでに市民たちが柵に集まり、期待の面持ちで中を覗き込んでいた。ざわつく空気が、その場の熱気をいっそう際立たせている。
「な、なんなの?この市民たち全員がその子目当てでここに来てるの?」
スカーレットは驚きと興奮が入り混じった声で呟いた。アンナもここまでとは思いもよらず思わず口が開いたままになっていた。
事前の通知なしでの訪問に動揺しつつ、中年の聖騎士マクスウェルが駆け寄ってきた。
タリーサの指導役を外されたマクスウェルだ。
「これはスカーレット枢機卿。グレース団長とのお約束ですか?ご案内します」
「いえ、最近話題になっている新人がいらっしゃるそうで。あのルーファス・セルヴィオラの娘さんであれば一度お会いしたく、伺いました。どの方かしら?」
スカーレットの問いに、マクスウェルはタリーサの注目度に内心の驚きを隠せないまま、彼女らを屋内練習場へ案内した。
「今、話ができるかどうか、少し覗いてきます」
マクスウェルはそう言うと練習場の奥へ向かったが、その背を見送る間もなく、アンナが一歩前に出て言った。
「いえ、枢機卿はお時間が限られていますので、確認は不要です」
アンナはマクスウェルを追い抜いて練習場のドアをいきなり開けた。
(続く)
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★あとがき★
どんなに傷ついても回復魔法ですぐに治せる。これってこういう使い方すると残酷だよなって前々から思ってました。えぐいです・・・
★この世界・物語の設定★
キラストリエは聖魔法を司る聖なる祈りと瞑想の守護神。
次回、ドアを開け放ったアンナが見た光景は・・・