第3話「タリーサの決意」 - 5
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
市民たちの騒ぎは、やがて教会上層部も知ることになる。
その知らせを聞いた保守派のアビゲイル枢機卿は、少し黙り込んで目を伏せた。
思い出されるのは、かつて共にこの国の未来を語り合ったルーファスのことだ。彼の理想や信念は今も心に深く残っていた。
しばし沈思した後、アビゲイルは隣に控えていた部下に向き直った。
「タリーサ・セルヴィオラ……彼女が新たに聖騎士団に加わるのは喜ばしいことです。この国に尽くしてきたあの家系が、再び国のために力を発揮する機会を得るのですから。いずれ彼女が父親のようにこの国に貢献してくれることを願っていますよ」
その言葉に隣に控えていた若い部下が一歩前に進み出た。
「枢機卿様、タリーサ様をこちらに引き入れてはどうでしょう。強力な味方になっていただけるかと…」
アビゲイルは少し微笑みながら首を横に振り、部下に諭すように言った。
「安易にそういうことを口にするものではありませんよ。あくまで新人の聖騎士ですよ?」
しかし、少し考え込んだ後、彼女は穏やかに続けた。
「いずれ彼女に会ってみるとしましょう」
その温かくも慎重な姿勢に、部下は神妙に頷き、アビゲイルへの尊敬の念を深めた。
一方、タリーサの入団に関する報せを受けた革新派のスカーレット枢機卿の部下は、焦燥の表情で彼女に報告を入れた。
「枢機卿様、セルヴィオラの娘が保守派の支持を増やす可能性があります!」
その報告にスカーレットは冷ややかな笑みを浮かべ、わずかに肩をすくめた。
彼女はルーファスと長らく信条的に対立していたが、それは20年近く前の事だ。
かつての英雄の娘が登場したところで、何の脅威にもならないと考えていた。
「なるほど、ルーファスの娘が聖騎士団に入ったのね。でも、新人の騎士一人で何が変わるというのかしら?」
スカーレットはそう呟くと、即座に別の仕事に戻った。
彼女にとっては、タリーサも、その登場に期待を寄せる市民も、ただの時代遅れの象徴に過ぎず、彼女自身の計画に影響を与えるものとは考えていなかった。
こうした事態に辟易としていた中庸派のウォルター枢機卿は、内心の苛立ちを隠しきれずにいた。
次期教皇選の準備が進む中、タリーサの登場によって注目が一層集まるのは好ましくないと彼は強く感じていた。彼は教皇選を慎重に進めるべきと考えていたが、彼女の存在が予期せぬ注目を集め、政治的な駆け引きが生じかねないと危惧していた。
「まったく、何故こんな時に。新しい教皇が決まってから名乗り出てくれればこんな騒ぎにもならないのに……」
彼はふと顔を上げ、少し不穏な微笑を浮かべた。
「いっそのこと、彼女に不慮の事故でも起こしてしまうか? …もちろん冗談だがね」
部下は一瞬息をのんでウォルターを見つめた。
だが、ウォルターの目には冷たい決意の色が宿っているように見えた。
言葉を失ったまま黙っている部下に対してウォルターは「本気にするなよ。何を驚いているのだ?」と一笑に付した。
(第3話 完)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
3人の枢機卿陣営を描いた回でした。第3部は次期教皇を争うこの3人が物語を揺り動かします。
ウォルターが最後に不穏な発言をしてましたが、果たして何が起きるのやら。
次話、聖騎士団にさらなる火種が・・・