第3話「タリーサの決意」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
そんな中、ペネロペ副団長の部隊が、長い遠征の末に王都ルオハンジェへと戻ってきた。
その途上、騎士たちは疲れを見せながらも、久方ぶりの凱旋に胸を高鳴らせていた。
王都の門をくぐった瞬間から、ペネロペはいつもとは違う熱気に気がついた。
彼女たちが行進を進めるたびに市民が次々と集まり、遠征部隊へ向けて惜しみない声援を送ってくる。ここ最近のパレードをはるかに上回る歓声だった。
「何だ、この騒ぎは……」
ペネロペは、周囲の異様な盛り上がりに眉をひそめた。
部隊の他の騎士たちも戸惑いの表情を見せている。例え自分たちが敵地で手柄を立てて帰還したとしても、これほどまでに歓迎される理由が思いつかなかった。
一人の部下が彼女に笑顔で尋ねた。
「なんだか随分歓迎されていますね。我々が不在の間にグレース団長が何か手柄でも挙げたのでしょうか?」
ペネロペは不思議そうに首を振りながら、仲間と共に聖騎士団の練習場へ向かって進んでいった。
だが、練習場に足を踏み入れると、そこに集まる大勢の市民たちの姿に思わず目を見張った。柵越しにびっしりと並ぶ人々が、それぞれ手を振り、ある名前を口にして歓声を上げている。
「タリーサ……? 誰だ、その者は?」
そこに、ペネロペの姿を見つけたオーリンダール家出身の騎士イーサンが、顔を強ばらせながら駆け寄ってきた。
「ペネロペ様、お帰りなさいませ。いま聖騎士団は大変なことになっているのです!」
話を聞いたペネロペは険しい表情で練習場の中を見回した。
彼女は聖騎士団長のグレースを見つけるとまっすぐに歩み寄った。彼女の目には疑念と苛立ちが混じり、声を抑えきれずに問いただした。
「姫様、なんですかこの状況は? どういうおつもりですか!?」
グレースは顔をしかめつつも冷静に返答した。
「姫様と呼ぶのは辞めろ。どういうつもりも何もない。タリーサ様は志を持って名乗り出て聖騎士団に入ったのだ」
「そうですか…」
押し切られるようにペネロペは呟き、その場を後にした。
しかし、その日の夕方、彼女はオーリンダール家出身の側近たちを集め、厳しい口調で指示を出す。
「我らが守るべきは、オーリンダール家と主君であるグレース様の繁栄だ。それを脅かす可能性がある者は、いかなる理由があっても排除しなくてはならない」
ペネロペの目には、冷たい決意が宿っていた。
「グレース様はお優しすぎて、タリーサの存在が何を引き起こすかを理解しておられない。セルヴィオラ家の娘が聖騎士団にいることで、また団長の座が外部に渡る可能性もゼロではない」
「そうなる前に、タリーサに自分には無理だと自ら退団するよう仕向けろ。聖騎士団の厳しさを教えてやれ」
副団長の言葉に側近たちは黙って頷き、無言の了解を示した。
◇ ◇ ◇
そして次の日から、厳しいしごきが始まる。
翌朝、タリーサの指導にあたっていたマクスウェルのもとに、イーサンとシェリルが近づいてきた。
2人はマクスウェルに穏やかな笑みを浮かべ、軽く会釈をしたが、その眼差しには冷たい光が宿っていた。
シェリルが一歩前に出て、やや丁寧に切り出した。
「マクスウェルさん、ペネロペ副団長があなたをお呼びですよ。ああ、新人の教育は、私たちが代わりに見ておきますからどうぞご心配なく」
イーサンも続けて微笑みを浮かべながら口を挟む。
「タリーサも、私たちから学ぶことがきっと多いでしょう。どうぞ安心して行ってください」
マクスウェルはその申し出に少し驚いた様子だったが、2人の厚意に感謝するように頭を下げると、「それは助かります」と礼を言い、副団長のもとへ向かった。
彼が見えなくなった瞬間、イーサンとシェリルの表情が変わった。
穏やかな笑みは消え、2人の眼差しは鋭く冷え切ったものへと変わり、タリーサに向けられた。
タリーサは息を飲み、自然と身構えた。
(続く)
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★あとがき★
第2部で一度登場した副団長ペネロペが王都に戻ってきました。
ペネロペはグレースの実家オーリンダール家で近衛騎士団長を務めていた側近です。
タリーサの入団を怪しみ、立ちはだかる存在となっていきます。
★この世界・物語の設定★
ペネロペは長身大柄。彼女が乗る愛馬も大柄。
次回、イーサンとシェリルはタリーサに厳しく当たります。