第3話「タリーサの決意」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
暗殺された英雄ルーファス・セルヴィオラ。
彼が団長を務めていた聖騎士団に素性を明かして入団する。
タリーサの思い切ったこの決断は、想像以上のスピードで影響を広げていった。
最初に彼女の名前が広まったのはある教会だった。
どこかから噂を聞きつけた信徒たちは、タリーサという英雄ルーファスの娘が聖騎士団に入団したらしいと話し合っていたが、この時は噂話でしかなかった。
そんなある日、その教会で小規模な集会が開かれることとなり、聖騎士団からも数人が手伝いに派遣された。その中には中年の騎士マクスウェルと、見習い騎士として同行していたタリーサの姿があった。
集会所に集まった市民たちは、聖騎士団の協力に感謝しながら、神に祈りを捧げていた。
その中で、マクスウェルが荷物を運ぶタリーサに向かってふと声をかけた。
「タリーサ、こちらの準備もお願いできるか?」
彼女の名が呼ばれると、周囲の人々がざわつき始め、集まっていた市民たちが驚いた顔で振り返った。
「タリーサ……もしかして貴女はタリーサ・セルヴィオラ様……ですか?」
「は…はい」
その名を口にするや否や場はさらにどよめき、すぐに彼女の周りに人々が集まり始めた。
彼女がかつての英雄の娘だと気づいた市民たちは目に涙を浮かべながら、彼女に詰め寄り、震える声で感謝の言葉を次々と口にし始めた。
「お父様に私の故郷を守っていただいたんです……」
「ルーファス様が戦い続けてくれたおかげで、私たちはこうして平和に暮らしてこられた」
一人、また一人と、ルーファスに救われた人々が感謝を述べ、彼の意志を継いで聖騎士団に加わったタリーサを、まるで救世主のように見つめていた。
タリーサはその言葉に一人ひとり丁寧に頭を下げ、礼儀正しく応じながらも、次第に圧倒されていった。父の名がここまで深く市民の心に刻まれていることは想像以上であり、それが20年近く経った今でも変わらずいる事にただただ驚くばかりだった。
そんな様子を見て、マクスウェルも事態に驚き、タリーサの肩に手を置いて市民たちに優しく告げた。
「皆さん、タリーサはまだ見習い騎士として、父の志を継ごうとしている若者に過ぎません。どうかその志を温かく見守っていただければ」
マクスウェルの言葉に市民たちは理解を示し、最後にタリーサの手を取って感謝の意を伝え、彼女を囲む輪が少しずつ解かれていった。
◇ ◇ ◇
この出来事をきっかけに、タリーサ・セルヴィオラの存在は教会に集まる保守派の市民たちの間で広まり始め、王都内にゆっくりとその噂は広がっていった。
そして遂に保守派の市民たちが大勢で聖騎士団の練習場に押しかけるという事態が起こった。
彼らはタリーサの姿を一目見ようと門前に集まり、彼女を救世主のように応援し続けた。
聖騎士団の団員たちは、この異様な状況に困惑を隠せなかった。
訓練中も市民の応援の声が響き、騎士たちは次第に落ち着かない表情を見せ始め、タリーサへの不満が表に出るようになっていた。
「まったく、あの騒ぎは何なんだ……タリーサが来てから練習場が落ち着かない」
「訓練に集中できん。これではまるで見世物だ」
騎士たちは苛立ちを隠さず囁き合い、タリーサは団員たちに謝って回り、市民たちには集まらないでほしいと頼んでいたが、その姿にも皮肉をぶつける者がいた。
「タリーサがああやって市民たちに話しかけるから益々集まってくるんじゃないか」
「どうせ市民は彼女に勝手に夢を見ているだけだろう。俺たちには迷惑な話だ」
そんな冷たい視線が次第にタリーサへと集中していったが、団長のグレースだけが毅然とした態度で彼女を擁護し続けた。
「タリーサが何か不始末をしたのか? 彼女の一挙手一投足に過剰な反応をするのは、騎士として恥じるべきだ。むしろ聖騎士団への期待だと誇りに感じろ」
グレースは静かに、しかし厳しい口調で部下たちを諫める。
騎士たちは団長の言葉を受け止め、次第にタリーサを受け入れるようになっていったかに見えた。
(続く)
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★あとがき★
物語のスピードが上がってますね。上げてます。
次回、遠征から戻ってきた副団長ペネロペは異様な事態に驚き、すぐに行動します。