第2話「カルメサス家の秘密」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
カルメサス家を訪れたヒューゴ侯爵は非常に上機嫌で愉快な男だった。
「いやあ~、伯爵が不在と聞いた時は間違えたかと思ったがトーマス君、君のような頭脳明晰な道化師がいるとは驚いたよ」
そこへマリア伯爵が帰ってきた。
「ヒューゴ侯爵、大変ご無沙汰しています。お待たせして申し訳ございません」
「おお、マリア殿。ますますお綺麗になりましたな。それで、伯爵はどちらに?」
「ん?」
「ですから弟のショーン伯爵です。出かけていると聞きましたが、まだ戻られませんか?」
ヒューゴが弟の名を口にした瞬間、マリアの表情に微かな動揺が走った。
それまで冷静沈着で、感情を表に出さなかった彼女が、抑えきれない感情を垣間見せた。
わずかに表情を曇らせたマリアの異変に気づき、侍従のオリビアが焦った様子で声を震わせながら割って入った。
「ヒューゴ様、恐れながら申し上げます。こちらが当家の領主、マリア・カルメサス伯爵でございます」
「んん?」
ヒューゴ侯爵は意味を理解できないでいた。
目を逸らしたままマリアが口を開く。
「ヒューゴ侯爵…弟ショーンは父より先に亡くなりました」
「おや、そうでしたか! これは勘違い、申し訳ない」
ヒューゴは驚きもせず、軽い調子で笑って応じた。
「…ヒューゴ殿、すみませんが失礼いたします。」
その言葉を残し、マリアは小さく礼をして応接室を出ていった。その顔はこわばっていた。
それに気づいたオリビアも焦った表情で侯爵に一礼し、すぐに後を追う。
執事のレイモンドも「失礼いたします。トーマス様、この場はよろしくお願いします」と言うと、慌ててマリアの後ろ姿を追いかけた。
ヒューゴは、残されたトーマスに向かって豪快に笑う。
「いやー、失敗した失敗した。どうも間違えたようだな! まさかマリア殿の方が伯爵になっているなんて! 私はずっと、あの弟君が継いだものだと勘違いしていたよ」
トーマスは驚きながらも、内心でマリアの弟について興味を抱いた。
「マリア様の弟君が後継者だったのですか?」
と問いかけると、ヒューゴはニコニコと笑いながら語り出した。
「ああ、そうさ。先代は、家を継ぐのは男だって考えの持ち主だった。マリア殿にはあまり見向きもせず、ずいぶん手厳しかったらしいよ。それを見て育った弟君も自分の姉に対して冷たい節があったな」
ヒューゴのあっけらかんとした語り口調に、トーマスは胸の奥がざわめくのを感じた。
彼の頭の中には、厳しくも毅然としたマリアの姿が浮かんでいた。
マリアが弟や父親から認められることなく、むしろ蔑まれた存在であったことを知り、彼女の仕事に対する厳格さや強迫観念がどこから来ているのかを理解し始める。
難しい顔をしているトーマスを見て侯爵は「君は道化師なんだろう? そんな込み入った事は気にせず、今みたいに楽しませてくれたらそれでいいさ!」と気楽に言い放った。
その一言に、トーマスは胸が重くなるような気持ちを覚えつつも、少し笑顔を返した。
「さて、と。私はこれでおいとましようかね」と軽やかに言い、ヒューゴ侯爵はカルメサス家を後にした。
◇ ◇ ◇
その日の晩餐は何事もなかったように穏やかに始まった。
華やかなテーブルに腰を落ち着けたマリアは、ふとトーマスのほうに目を向け、何気ない調子で尋ねた。
「トーマス、ヒューゴ侯爵から何か面白い話を聞けたか?」
トーマスはマリアの視線に一瞬、戸惑いを覚えながらも、無難に微笑み返しながら言葉を選んだ。
「いえ…特には。あの後、用事を思い出されてすぐに帰られました」
マリアはトーマスの様子を観察するようにしばらく黙っていたが、特に追及することはせず、食事を続けた。
晩餐が終わり、トーマスが自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、静かに佇むオリビアがふいに彼の前に現れた。彼女はいつもの穏やかな微笑みではなく、無表情でいた。
「トーマス様…ヒューゴ侯爵から何か話をお聞きになったとしても、それは他言無用でございます。よろしいですね?」
その声には、強い威圧感が含まれており、トーマスは無意識に息を詰めた。
後ろからレイモンドも姿を現し、無言でトーマスを見つめていた。
2人の視線が向けられ、さながら見えない鎖で縛られるかのような圧力を感じたトーマスは、息苦しさを覚えながらも、黙ってただ頷くしかなかった。
(第2話 完)
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★あとがき★
1回でカルメサス家の秘密を描くという無茶をやってみました。
マリアが抱える闇は本編には直接は関係しないのでこれくらいにしておきます。
第3部は内容濃いので本筋じゃないところはサラっと行きますよー
次話、タリーサは大胆な決断をします。それによって王都は大きく動き始めます。
10/29(火) 8:40に更新します。