第1話「教皇の宣言」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
アンナは激しく動揺していた。
前を行くマリア伯爵が「ほら、簡単だっただろう?」と声を掛けるが、まともに聞こえていなかった。
「私が…枢機卿秘書官?」
どどどど、どうすればいいの? 枢機卿の仕事なんて何一つ知らないわよ!?
前世はわがまま貴族令嬢だったから、教会に行く日なんてお祈りのフリをして逃げ回ってたし、そもそも聖書なんて飾り物だと思ってたし!?
大体、秘書官って何よ??
私こそ誰かに秘書つけてほしいくらいだってのに!
枢機卿様にお茶出し?いやいや、そんなの無理!お茶の入れ方もわからないし、うっかりスカーレット枢機卿の顔にぶっかけたらどうするのよ!?
その時、窓の外から楽しげな小鳥の声が聞こえてきた。
アンタはお気楽でいいわよね。飛べたって誰も驚かないし、秘書官に採用されることもないでしょ!
思わず心の中で毒づいてしまう。
「大丈夫だ、アンナ。お前ならできる」
マリア伯爵は、背中越しに淡々と言い放つ。
「そ、そんな簡単に言わないでくださいよ!」
アンナは思わず悲鳴を上げた。
確かに魔法は成功したし、枢機卿様も驚いていたけど、それってただの魔法の披露でしょ!?どう考えても秘書官の仕事じゃないわ!手元を誤って、大事な書類に魔法をかけちゃったら大事件よ!
思考がぐるぐると回り続けている。
その時、すれ違った貴族の一人に、じろりと不思議そうな顔で見られた。
「私、いま絶対変な顔してた! 目が血走ってた! 人様に見せちゃいけない顔だった!!」
そう思った瞬間、さらに顔が熱くなってきた。
ああ、どうしよう…お姉様に「期待してる」なんて言われたけど、もう逃げ出したい!
このまま廊下のどこかに隠れて、忘れてもらえないかな…でもスカーレット枢機卿のことだから、絶対に私を見つけ出してきそう!あああ、どこかに隠れられる穴は…?
「お姉様…助けて…」
そうだ、私はただここにいるだけじゃない。お姉様のために、この場所に立っているのだ。完璧で、強くて、優雅なお姉様。どんなに困難な状況でも、お姉様はいつも私を守り、導いてくれた。自分を信じて送り出してくれたのも、お姉様の決断。
でも…でも、無理だってば!私、こんな大役なんて務まらない!しかも相手はスカーレット枢機卿様!あの人、私がちょっと間違えただけで『裁きの剣』とか言って笑顔で制裁しそうだし! え、もしかして本当にそういう展開!? 私、お父様の真相に近づく前に終わっちゃう!?
頭の中は引き続き混乱状態。
でもその時、ふと、お姉様がよく言っていた言葉が耳に蘇ってきた。
(できることを全力でやるだけよ。それができれば、道は開けるわ)
「できることを全力で…」
アンナは一度深呼吸をした。
まだ何も終わっていないし、始まったばかりだ。
お姉様は私を信じているのだから、こんなところで逃げ出すわけにはいかない。
「やるしかない…全ては愛するお姉様のため!」
アンナは覚悟を決め、ついに腹をくくった。
マリア伯爵の背中を見据え、しっかりと足を踏み出し、決意のままに進み始めた。
(第1話 完)
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★あとがき★
アンナは第1部では心の中での妄想癖がオーバーロードしてるキャラでしたが、しばらく遠ざかってたので取り戻しました笑 この挿絵最高ですよね。秘書官の設定からこの挿絵までAI様が本当によく考えてくれました。マリアの微笑みとアンナのコミカルな混乱が非常に良い対比
次話、トーマスは隣国の来賓に風刺を披露し歓待しますが、その来賓が思わぬ失言を・・・