第1話「教皇の宣言」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
スカーレット枢機卿は、王宮の廊下を静かに進んでいた。
絢爛たる宮殿の装飾の中、彼女の足音だけが石畳に響く。彼女の頭には、次期教皇選を控えた教会内の政治が絶え間なく巡っていた。だが、次の瞬間、聞き慣れた声が後ろから届いた。
「枢機卿閣下、ご機嫌いかがですか?」
スカーレットは立ち止まり、振り返った。
そこには、マリア・カルメサス伯爵が冷静な面持ちで立っていた。
いつもの凛とした姿に加え、隣には若い女性が一歩下がって控えている。
「カルメサス伯爵、おはようございます。」
スカーレットは微笑を浮かべたが、その瞳の奥に僅かな警戒心を漂わせていた。
マリアは一礼し、少し世間話を始めるかのような穏やかな口調で話し出した。
「最近、ドワーフたちの技術発展が目覚ましいのをご存じでしょうか? 特に、鉄鋼加工や建築技術の分野、さらには銃という新世代の武器で大きな進展があったと聞いております」
スカーレットは、その話にすぐに興味を示し、少し身を乗り出すようにして答えた。
「ええ、そんな噂を聞いています。それには非常に関心がありますよ。ですが、どうにも情報が後手に回ってしまっていて…。私の部下の中に、ドワーフ語を話せる者がいないのが大きな原因でして…直接彼らから話を聞けないのは、非常に悩ましい問題です」
マリアは、期待していた反応が返ってきたことに、内心で満足を感じながら、静かに微笑んだ。
「それはお困りでしょうね。彼らの技術や知識を深く知るには、直接言葉を交わすことが不可欠ですから」
スカーレットはため息をつき、頷いた。
「まさにその通りです。私たちが新技術を取り入れようとしても、肝心の情報が彼らの言葉の壁で届かないのです。せめて通訳がいれば…」
マリアは一瞬の間を置き、視線を自分の隣に立つ若い女性に向けた。
「でしたら、私の遠縁にあたるこの者をお貸ししましょう。彼女、アンナ・カルメサスは、若者ながらドワーフ語だけでなく、エルフの言葉も操る才女です。異種族の技術や文化に通じており、閣下が直接彼らと交渉する際にお役に立てることでしょう」
スカーレットは再びアンナに視線を向けた。
「エルフとドワーフの両方の言葉を?」
スカーレットは興味深げに問い返す。
アンナの金髪が柔らかな光を浴びて輝き、控えめながらも自信に満ちた表情が、スカーレットの目に留まる。確かに、ドワーフやエルフと直接話ができる能力は、スカーレットにとって非常に価値があるものだった。
「ええ、彼女はそれだけではありません」
マリアは、満足そうに続ける。
「アンナは風魔法を操る魔法使いでもあります。様々な場面でその力を役立てることができるはずです。彼女を秘書官としてお使いいただければ、閣下の活動に大きな助けとなるでしょう」
スカーレットは少し考え込むように視線を落とし、再びアンナの方を見つめた。
「言語と魔法、両方を扱えるのですね。確かに、私が必要としているのは貴女のような多才な人物です。特に、新技術を取り入れるにあたり、異種族との交渉力は不可欠です」
アンナは一歩前に進み、静かに礼をした。
「枢機卿様。私は、これまで異種族の文化や技術を学んできました。あなたのお役に立てる機会をいただき奮える思いです。どうぞ、私の力をお試しください」
スカーレットはアンナの誠実な態度と自信に満ちた声に、少し微笑んだ。
「マリア伯爵やアンナさんの言葉を疑うわけではありませんが、何か一つその実力を私に見せてはいただけませんか」
アンナは静かに頷き、低い声で詠唱を始めた。
彼女の周りの空気が静かに揺れ、淡い光の粒が足元で踊り始めた。
アンナの身体が浮かび上がり、まるで風そのものが彼女を抱き上げたかのようだった。
スカーレットが驚いて見ている中、さらにアンナは別の詠唱を重ねる。
すると今度はスカーレットの耳元に大きな話し声が聞こえてきた。
枢機卿は見渡すが、近くにいるのは無言で立っているマリアだけだ。
「枢機卿様に聞こえているのは向こうの廊下で話している貴族の方々の会話です」
それを聞いてスカーレットはしばらく沈黙した後、満足そうに微笑みを浮かべた。
「よろしい。では、秘書官としてあなたを迎え入れることにしましょう」
マリアは軽く頷き、スカーレットに微笑みを返した。
「ありがとうございます。アンナがきっと、スカーレット様の期待に応えるはずです」
スカーレットはアンナに歩み寄ると、その肩に軽く手を置いた。
「これから多くの試練が待っているでしょうが、私を失望させないでください」
「もちろんです、枢機卿様」
アンナは深く礼をし、感謝の意を示した。
スカーレットは再びマリアに向き直り、軽く頷いた。
「伯爵、あなたの推薦をありがたく受け入れます。今後、アンナがどのように私の力となるか、楽しみにしています」
「感謝いたします、枢機卿閣下」
マリアは再び一礼し、アンナと顔を見合わせるとニッコリと微笑んだ。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
第2部でアビゲイルとともに一瞬出てきたスカーレット枢機卿との対話の回、秘書官への採用でした。
スカーレットは第3部を再構成するにあたって出番が急増することになった人です。頑張ってね♪
★この世界・物語の設定★
「枢機卿秘書官」
枢機卿の業務を補佐し、重要な文書や交渉を管理する役職。貴族の出身者や教会内で高い学識を持つ者が務めることが多い。
次回、アンナは勢いで枢機卿秘書官を引き受けてしまったけど、そんな事できるんだっけ?
10/24(木) 8:40に掲載します!