第1話「教皇の宣言」 - 1
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
教皇庁の大聖堂。
“教皇の間”では教皇と枢機卿たちが一堂に会して定例の会議を行なっていた。
教皇は穏やかな表情で枢機卿たちを見回し、静かに言葉を紡いだ。
「本日の議題はこれで終わりですね。最後に1つ、皆さんに伝えたい事があります」
枢機卿たちは一斉に顔を上げた。緊張走る空気の中、教皇は深く息をつくと、静かに続けた。
「私は、あと6ヶ月でこの座を降りることに決めました」
その瞬間、広間全体に衝撃が走った。枢機卿たちは一斉にざわめき始める。
「ご聖下、それは本当ですか、半年とはあまりにも急です……」
「どこかお体の具合が悪いのですか?」
中でも最年長の枢機卿は、青ざめた顔で教皇に詰め寄り、なんとか引き止めようとする。
しかし、教皇はただ静かに首を振るばかりだった。
「皆さんもご存知の通り、私には心臓の持病がありましてな。これの具合が良くならんのです。日頃の行ないが良くないのでしょうな」
高齢の教皇にそう言われてしまっては引き止めようもないのだが、往生際の悪い枢機卿は、あと1年頑張りましょうなどと無責任な引き伸ばしをしようと必死になる。
そんな中、アビゲイル枢機卿は無表情を保ちながらも、内心で激しい決意を固めていた。
(ついにこの時が来たか……)
彼女は手元の祈りの珠を握りしめ、後継者にふさわしいのは自分だと確信していた。彼女の眼差しは冷静でありながら、その奥には力強い野心が潜んでいた。
スカーレット枢機卿もまた、口元に微かな笑みを浮かべる。
革新派のリーダーとして、彼女は常に新たな時代を切り開く準備をしてきた。王都ルオハンジェの産業発展を推し進めてきたが、現教皇の保守的な姿勢が邪魔をしている。次期教皇となれば、王国全土にその力を広げられる。
(今こそ、教会を改革する時が来た)
一方、ウォルター枢機卿は静かに目を伏せ、手を組んだ。
彼は他の二人と違い、内心の葛藤を隠していた。長年、教皇に忠実に仕えてきた彼もまた、次期教皇の座を意識せざるを得ない状況に立たされていた。
(自分も……この流れに巻き込まれるのだろうか?)
「枢機卿の皆さん……」
教皇は厳かな声で言葉を続けた。
「次期教皇は、慎重に選ばねばなりません。我らの平和な未来を託す者が必要なのです」
枢機卿一人ひとりを見渡し、教皇はさらに言葉を継いだ。
「平和を目指す教皇の座を巡って、枢機卿同士が争うようなことがあってはならない」
(どの口が言うかね…)
スカーレットは心の中で冷笑する。
「私の時にはそれが叶わなかった。見苦しい争いの末に選ばれたのが、この不出来な教皇です。歴史を繰り返してはならない。どうか、この言葉を肝に銘じてください」
教皇は立ち上がって深く頭を下げて、枢機卿たちに懇願した。
(歴史は繰り返さざるを得ない。それが分からないならば、確かに貴方はもう潮時だ)
アビゲイルは冷ややかに頭を下げる教皇を見つめていた。
会議の終了を告げる鐘が鳴り、枢機卿たちはそれぞれの思いを胸に、広間を後にした。
教皇の退位宣言が、次の戦いの始まりを告げたのだった。
(続く)
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★あとがき★
第3部は教皇の引退宣言で始まりました。
アビゲイル、スカーレット、ウォルターなどといった枢機卿たちの勢力争いに主人公タリーサたちも巻き込まれて行くことになるでしょう。
次回、マリア・カルメサス伯爵はある提案をします。