インタールード vol.3 -4 「血路 ーー アリアの散り際」-4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
叙勲式を終え、昼下がりの柔らかな日差しが差し込む中、ニールは自らの館に戻った。
周囲の騒がしさから解放された静かな館内は、彼に少しだけ落ち着きをもたらしてくれた。遠くで鳥のさえずりが聞こえ、風が庭の木々をそっと揺らしている。
ニールが玄関をくぐると、執事のベンジャミンが既に待機していた。儀式で着用していた上着と勲章を手際よく受け取ると、彼は新しい当主に祝いの言葉を贈る。
「お帰りなさいませ、ニール子爵。叙爵おめでとうございます」
ベンジャミンの声はいつも通り落ち着いていたが、どこか誇らしげでもあった。
「お前に言われると気恥ずかしいな…ベンジャミン」
ニールはわずかに微笑んだものの、内心は穏やかではなかった。
「それにしても、不自然なことが多すぎる。叙勲は嬉しいが、爵位の継承まで話が進んだのはどうも腑に落ちない。父上は本当に望んでいたのか?」
ベンジャミンはその場で一瞬だけ間を置き、冷静に答える。
「ニール様、この継承はチャールズ様が望まれたものです。息子が殊勲を挙げ、家督を譲ることができて、とても喜んでおられました」」
ニールはじっとベンジャミンの目を見つめたが、その心の奥を覗くことはできなかった。
「その父上はいまどこにいるんだ? 叙勲式も欠席されてたがまだ具合が悪いのか?」
執事から手渡されたメモに目を通しながらニールは尋ねる。
叙勲式で不在の間に仕事は早速溜まっていた。
「はい・・・肩の荷が下りて気が緩んだと仰ってます。別荘にて湯治されています」
ベンジャミン議事官は上着などを侍従たちに渡し、茶の用意を命じた。
「そうか、大事にならなければいいが・・・」
突如、爵位を譲って引退すると言い出した父は、そのまま館から姿を消した。
別荘にいるのであれば、後日挨拶に行かねばならない。
その時、廊下の向こうから軽やかな足音が聞こえ、ニールの考えを遮った。小さな声が響く。
「お兄様!」
扉が開き、侍女に手を引かれた幼い男の子が部屋に入ってきた。
フェリックスだ。彼は、活気に満ちた目でニールを見つめ、嬉しそうに駆け寄る。
「お兄様! ジョクンおめでとうございます!!」
無邪気な笑顔でニールを見上げるフェリックス。その姿に、ニールの表情も少し和んだ。
「おお、フェリックス。3歳のくせによく叙勲なんて言葉を知っていたな」
ニールは弟を抱き上げ、楽しげに問いかけた。
「はい! 意味は分かりません!」
フェリックスは大きな笑い声を上げた。
彼の無邪気な様子は、ニールにとって心の重圧を一瞬だけ忘れさせてくれる。フェリックスの純粋な笑顔は、どんな困難も乗り越えられるという希望を感じさせた。
ニールはソファに座ると弟を膝の上に載せ、頭を優しく撫でた。
すると、ふと何かを思い出し、ベンジャミンに向き直る。
「ところで…ベンジャミン、アリアはどうしている? 最近会っているのか?」
その質問に、ベンジャミンの手が一瞬止まった。
彼はすぐには答えず、わずかな間を置いた後、静かに返答した。
「アリア…ですか…」
ニールはその反応に何かを感じた。
「ああ、そうだ。会っていないのか?」
その質問は少々挑戦的だった。
しかし、ベンジャミンは表情を変えずに答える。
「彼女がマルトゥリック家を出て以来、一度も会っておりません。先代に解雇・絶縁された不名誉な娘とは、もう金輪際会うつもりはございません」
ベンジャミンの声には冷たさがあり、その冷酷さにニールはかすかに眉をひそめた。
彼の言葉は正論に聞こえたが、何かが引っかかる。アリアらしきペンダントが、彼の胸の中で再び重みを増す。
「そうか…」
ニールは静かに答え、再び弟の方へ目を向けた。フェリックスは無邪気な表情でニールを見上げている。
彼は弟を優しく降ろし、深い息を吸い込んでから心に決意を固めた。
「これから…私はマルトゥリック家を背負っていくわけだ」
弟のために、家族のために、そしてマルトゥリック家の名を未来へと繋ぐために。
ニールの胸に新たな決意が燃え上がり、その目には揺るぎない光が宿っていた。
(血路 ーー アリアの散り際 完)
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★あとがき★
アンナ「フェリックスちゃん、かわいい・・・」
トーマス「こういう事だったんだね。ニールもフェリックスもマルトゥリック家に何があったのかは今も知らないんだろうなぁ」
タリーサ「ああ、辛い話だった。トラウマになりそう・・・作者さん、この記憶は消してください。絶対ですよ?」
次回、ラジオ番組に戻ります。思わぬゲストを迎えることに・・・