インタールード vol.3 -4 「血路 ーー アリアの散り際」-3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
アリアと傭兵団たちは、薄暗い森の中で静かに佇んでいた。
森の木々は背が高く、冷たい風が枝を揺らし、葉がささやくような音を立てている。周囲には霧が立ち込め、足元の草が湿り気を帯びていた。夕方の森は重苦しい暗さに包まれ、不気味な静けさが漂っていた。
アリアはじっと森の奥を見据えていた。目の前には、所属不明の騎士団が控えている。
彼らの鎧には紋章がなく、身にまとう雰囲気もどこか冷たいものだった。
「お前らか、セルヴィオラ家にケンカを売ろうって奴らは」
アリアの声が静かに森に響く。「恨みでもあるのか?」
「お前が知る必要はない」
騎士団の一人が冷静な声で返す。アリア達には一切何も教える気はないという様子だ。
「それよりも死んで散るところまでちゃんとやれるんだろうな?」
アリアは嘲笑気味に鼻を鳴らす。
「くだらない事を心配するな。オレたちの素性は知ってるだろう? 家の為に死ぬことが仕事だった。今回の役目はまさに本望だ」
彼女の言葉には揺るぎない決意が込められていた。
「その言葉…忘れるなよ」
騎士は冷ややかに返し、鋭い目でアリアを見つめる。森の中の空気が一層重くなる。
睨み合う2つの集団の間には、一触即発の緊張感が張り詰めていた。
不意に、静寂を破るように一人の伝令が駆け寄ってきた。彼の息は荒く、汗が滲んでいる。
「伝令! 王都でルーファス・セルヴィオラ聖騎士団長、リリー・クロワ副団長が死体で発見されました! これを絶好の機会とみて計画は実行に移されます!!」
彼の声が冷たい空気に響き、アリアと傭兵たちは一瞬言葉を失った。
「大事件発生だな…」
騎士団のリーダーもこの展開にはいささか驚いているようだった。
「傭兵さんたち、そういうことだ。聖騎士団長が死んでくれたのはありがたいな。我々の計画実行ももうすぐだ。いつでも出れるように準備しとけ」
アリアは頷き、仲間に視線を送る。
「…ああ、了解だ」
彼女の背中は、どこか寂しさを帯びていたが、その目には冷たい決意が宿っていた。
◇ ◇ ◇
伝令はマルトゥリック家にも届いていた。
「閣下、大変です! 隣のセルヴィオラ家が所属不明の軍に攻撃を受けているとの報告がありました!」
「な、なんだと!? ベンジャミン、どうすればいい?」
いつものように、チャールズ伯爵は重大な決断を自分で下すことを避け、議事官に頼ろうとしていた。
「セルヴィオラ家は王都で裁判を受けて、いま非常に不安定な状態です。すぐに救援に向かいましょう。ニール様の騎士団にお願いしましょう」
ベンジャミンは冷静に答えていたが、胸はチクチクと痛んでいた。
「おお、そうか! では息子に行ってもらおう」
いよいよその時が来た。
胸がギュっと締めつけられるのを感じながら、ベンジャミンは覚悟を決めた。
心の中では娘アリアの姿がちらつく。だが、もう後戻りできない。
◇ ◇ ◇
燃え盛る炎の音が、静寂に包まれた夜の森に響き渡っていた。
セルヴィオラ家の館はまだごうごうと燃え、赤々とした火の手が暗闇の中に立ち昇る。黒煙が空高く広がり、鼻をつく焦げ臭さが辺りに漂う。夜空は曇り、月明かりも頼りない。
「誰も助けられなかった…もう少し早く到着していれば…」
ニールは無念の表情で天高く登る火の粉を眺めていた。
館の外には無数の遺体が散らばっていた。
マルトゥリック家の騎士団がようやく戻ってきたが、彼らが目にしたのは、すでに終わっていた惨劇の跡だった。
一人の騎士が足早にニールへと駆け寄る。
彼の顔には疲労と焦りが混じっている。鎧には戦闘の痕跡が残り、まだ汗が額に光っていた。
「ニール様!」
騎士が息を整えながら報告する。「賊は全て倒しました。この一帯はもう安全です」
「ご苦労、あそこの軍勢はなんだ?」
彼はちらりと視線を向け、館の外に立っている別の騎士団を見やる。遠くに見える彼らのシルエットは炎に照らされ、不気味な影を落としている。
「オーリンダール家からの救援部隊のようです。あちらも、もう戦闘は終わったとのこと」
別の騎士が低い声で答える。
「そうか…」
ニールは小さく頷きながら、目の前の光景を眺めた。炎が木々の影を踊らせ、赤い光が森全体に広がっている。彼は深く息を吸い込んだが、焦げた空気が肺を焼くようだった。
「捕らえた者はいるか?」
部下たちを見渡す。彼らの鎧は一様にすすで汚れ、それがこの戦闘の激しさを現しているかのようだった。
「それが…戦闘で亡くなった者以外は皆逃げて崖から飛び降りてしまい…1人も捕まえられていません」
騎士の報告に、ニールは苦い表情を浮かべた。
「むぅ…」
彼は眉をひそめ、周囲を見回したが、得られるものは何もなかった。賊の正体の手がかりはどこにも見当たらない。煙が濃く、焦げた木の匂いと死の臭いが混ざり合い、頭の中がざわついた。
「セルヴィオラ家の館を調べよう」
彼は命じると騎士たちと共にゆっくりと館の残骸へと歩み寄った。
焦げた木片や瓦礫が散乱する中、炎がまだチリチリと残っていた。熱気が肌を刺し、近づくたびに立ち込める煙が視界を曇らせる。
ニールは周囲を慎重に調べながら、ふと足元に目を向けた。
その瞬間、彼の動きが止まった。火の明かりで照らされた地面に、何かが光っていた。
「これは…」
彼はゆっくりとしゃがみ込み、泥と灰にまみれたそれを拾い上げた。手に乗せた瞬間、彼の心臓が大きく跳ねた。ペンダントだった。見覚えがある。何度も目にしたことのある装飾。
「アリアの物では…?」
ニールは小さく呟き、ペンダントをしっかりと握りしめた。
これがどうしてここにあるのか。彼女がこの場にいたということなのか。
「まさか…」
急に胸の中がざわつき、激しい動悸が襲いかかる。
ニールは辺りを見回したが、もちろん、アリアの姿はどこにもなかった。
(続く)
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★あとがき★
タリーサ「胸が・・・苦しい・・・息が、できない・・・」
アンナ「これは・・・お姉様には刺激が強すぎる話ですわ。マルトゥリック家がこんな形で襲撃事件に関わっていたなんて・・・」
トーマス「それにしてもアリアとベンジャミンの親子。本当に辛い運命だね・・・」
タリーサ「次回でこの物語も完結ね。辛いけど最後まで読むわ」
次回は明日10/17(木) 8:40に更新します。