インタールード vol.3 -4 「血路 ーー アリアの散り際」-2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
アリアは激昂し、椅子から立ち上がった。
「ニール様をだしにしてこのオレに死ねだと!? じじい、お前がそれをオレに言うのか!!?」
彼女の言葉は怒りに震えていた。
「ああ、私は、実の娘に死んでくれと頼んでいる」
ベンジャミンの声は変わらず低いが、深い悲しみが滲み出ていた。
「俺が死んで、団の者たちはどうなる?」
なおもアリアは荒々しい声を放ち、ベンジャミンを睨みつける。
「一緒に死んでほしい。全ては、ニール様のためだ」
老紳士はカウンターに手をつき、深く頭を下げる。
アリアは2杯目のビールを飲み干すと、ジョッキを叩きつけた。
「…何があった? チャールズのボケじじいがまた何かやらかしたのか?」
「伯爵様をボケじじいなどと言うな。だが…お前の推察通りだ」
アリアは空のジョッキを再びカウンターに叩きつける。
「またあのじじい、ギャンブルで…ベンジャミン議事官様はおそばに居たのに何やってたんだよ!!」
ベンジャミン議事官を睨みつけるアリアの目は怒りと失望に満ちていた。
「面目ない、お前の言う通りだ。こんな事になっているとは気づかなかった。もう2度とやらないと約束していただいたのに…執事を使ってギャンブル続けられていた」
彼は後悔を滲ませながら話す。
「それで、オレたちが死んだらなぜ話がまとまるんだ? ちゃんと説明しろ!」
「チャールズ様はギャンブルで負け続けて、多額の借金を作った。そいつから『家が潰れるほどの額になってますが、王宮に相談した方がいいんじゃないですか?』と脅されたんだ」
アリアはジョッキを強く握りしめ、次の言葉を待っている。
「王都にバラされず借金を帳消しにする代わりに…お前たち元近衛騎士団が指名されたんだ。賊がセルヴィオラ家を襲撃しようとしている。お前たちが…賊の仲間に加わってセルヴィオラの者たちを殺した上で罪を被って全員死ぬこと…それが奴らの条件だ」
唖然とする娘に、残酷な条件を話す。
「な…そんな悪行に加担しろだと?」
そんな事をして調べられたりしたら危ないのはマルトゥリック家じゃないのか。
アリアは信じられないといった顔で父親を見ていた。
「素性がバレないように死ねと言われている」
彼女は冷ややかに笑いながら立ち上がった。3杯目のビールを注ぎに行く。
「冷静になれ、親父。セルヴィオラなんて名家に手を出して無事で済むわけないだろ。借金を帳消しにする前に家ごと消されちまうぞ」
ジョッキは泡だらけになっていた。アリアは舌打ちしてその泡を捨てる。
「セルヴィオラには重大なスキャンダルがあるらしい。それが暴露された後に襲撃を決行する」
◇ ◇ ◇
アリアは煙草をベンジャミンに勧めたが、彼はこれも断った。
「チャールズのじじいはどうなる? あいつが変わらなきゃまた同じ事が起きるぞ?」
彼はわずかに顔を上げた。
「これを機にチャールズ様には引退していただく。そして、ニール様がマルトゥリック家を再興するんだ。襲撃を鎮圧し、その功績をもって彼は当主となる。そして、セルヴィオラ家のリダニウ鉱山の管理を任されることになる。そうすれば数年で他の借金も含めて完済できる」
「じじい、お前…そこまで考えて…」
ベンジャミンは覚悟を決めて娘を見据える。
「ああ、そうだ。私は実の娘の命を差し出してまでして、マルトゥリック家再興の為に謀略を巡らせている。ろくな死に方をするとは思っとらん」
「…ニール様はこの計画を知っているのか?」
「無論知らない。新しいマルトゥリック家を作るお方に汚れ話は不要だ」
「・・・・・・」
長い沈黙の後、深いため息をつくとアリアは立ち上がって壁の方に歩いていった。
「傭兵になってからさ、団の者たちとその日を生きる為にできる事は何でもやって金を稼いできたよ。暗殺だって請け負った。でももう騎士団じゃないんだ、気にする事なんかない」
壁の模様を指でなぞりながら、これまでの道のりを振り返る。
壁の冷たさが、指を伝ってくる。
「それでもさ、みんなどこかでマルトゥリックを気にかけてた。ニール様には良き領主となって民と共に幸せになってほしいとよく話してるんだよ。まさかその願いがこんな形で叶うことになるとはなぁ…」
アリアは父に背を向けたままだ。
「アリア…本当にすまない」
ベンジャミンは俯き、声を震わせながら続けた。
「私もすぐにそちらに行く」
アリアはその言葉に瞬間的に反応し、声を張り上げた。
「いや、来るな! …お父様は、ベンジャミン議事官は、ニール様を支えてください。ニール様にはそばに頼れる人が必要です」
その声には、かつての騎士団長の威厳が戻っていた。
だが、アリアのその言葉には決意と強がりが滲んでいた。
父親だからこそ娘の思いは痛いほどよく分かっていた。
ベンジャミンの目から思わず涙が溢れ出る。
彼の肩は震え、胸を締め付ける苦しみに耐えきれなくなっていた。
「そうだな…私はこの大罪を背負って、地獄を生きねばならぬのだったな。アリア…」
ベンジャミンはかすれた声で言葉を紡ぎ出したが、涙でそれ以上何も言えなくなってしまった。
「これは親孝行です、議事官。死ぬまで苦しんで、やり切ったら私のところにおいでください。その時は何のしがらみもなく、二日酔いも気にせず、飲み交わしましょう、お父様…」
振り返ったアリアの言葉は微かに震えていたが、淀みないものだった。
ベンジャミンは娘の言葉に肩を震わせて泣き続けた。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
アンナ「・・・なんて悲しい話なの。作者は悲しい話しか書かないわね」
トーマス「それより、姉さんの顔が真っ青だよ」
タリーサ「この話・・・私は第3部が始まったら記憶から消えてるのよね? これ知ったままじゃフェリックス様に会えない・・・」
次回は明日10/16(水) 8:40に更新します。