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第20話「断たれた鎖」 - 6

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

タリーサとアンナは互いに視線を交わし、小さな小屋の中へ足を踏み入れた。


内部は質素で、石の炉と粗末な棚が置かれた簡素な空間だった。しかし、ハーブの香りが漂い、どこか心が落ち着くような雰囲気があった。彼女たちが木製の椅子に腰掛けると、アンドリューは手慣れた様子でハーブティーを淹れ、2人に差し出した。


タリーサはカップを受け取ると、意を決して話し始めた。


「まず最初に、セルヴィオラ家を代表して謝罪させてください。数十年に渡ってセルヴィオラが何をしてきたのかを知りました。そして・・・」


一度息を吸い込み、彼の顔をまっすぐ見つめる。


「アンドリュー様が『私の両親はセルヴィオラに殺された』と仰っていた意味も・・・理解しました」


言葉を切ると、彼女はゆっくりと立ち上がり、隣にいたアンナも同じく席を立って、2人は深々と頭を下げた。タリーサの手は微かに震えており、体全体から緊張が滲み出ていた。


「こんな言葉で足りるとは思っていませんが、本当に申し訳ございませんでした」


小屋の中はしばし静寂に包まれた。アンドリューは冷静な表情で2人の姿を見つめていたが、しばらくしてゆっくりと頭を横に振った。


「タリーサ殿、アンナ殿、やめなさい。そんな謝罪は不要だ。エルドムイ家も、メーガンたちもそれ相応のことをしていたのだろう?」


「それは・・・」


タリーサは言い淀む。


「やはり、そうか…それでタリーサ殿がここに来たという事はどういう事になるのかな?」


老人の目は鋭く、言葉の奥に込められた意図を探るように、じっと彼女を見つめている。


「はい…復讐の連鎖は、断ち切ることができたと思います。メーガン夫人も私たちも生きています。そしてお互いにもう会うことはないです」


アンドリューはふっと天を仰いだ。その姿は、長年胸につかえていたわだかまりがようやく消え去ったかのようだった。


「そうか…そうか…よくぞ両家の因縁を解き放ってくださった」


彼は静かに目を閉じると、しばらくの間、黙っていた。どこか遠くを見つめているかのようなその表情には、深い安堵の色が浮かんでいた。


「でも…まだスコットさんが…見つかっていません」


アンナが心配そうに口を開く。


「スコット? あいつは気弱で優柔不断な奴だ。気に病む必要はない。メーガンとダニエルが出ていくから着いていったくらいのものだろう。そうだ、ダニエルは?」


タリーサは静かに頷きながら、ダニエルがセルヴィオラ家に潜り込み、数年前に病死したことを伝えた。アンドリューは表情を崩さず、じっと耳を傾けていたが、話が終わると小さく息を吐いた。


「そうか…あいつ、病気で…」


彼は一瞬弟に思いを馳せたがすぐに向き直り、尋ねた。


「それで、セルヴィオラの娘たちはこれからどうするのかな?」


タリーサは目を閉じ、深呼吸をした後、まっすぐ彼の目を見据えた。


「私たちが知りたいのは父ルーファスの死の真相です。メーガン夫人たちが狙ったのは祖父◯◯とセルヴィオラ家そのものでした。父のことはまだ何も分かっていません」


「では旅はまだ続くのですな。そこにも復讐の情念が渦巻いているかもしれない。大丈夫かな?」


タリーサはしばらく黙って言葉を選ぶ。


「愛する父のことです。大丈夫とは言えない。でも、向き合います」


「アンドリュー爺が、未来ある貴女がたに伝えられるのは以前と同じだ。復讐の連鎖は断ち切らなければならない」


「はい・・・肝に銘じておきます」


タリーサの声には決意が込められていた。彼女たちは静かに頭を下げると、小屋を後にした。


◇ ◇ ◇


アンドリューは、2人の背中を見送りながら、隣に座る白いライオンに語りかける。


「私が無駄にここで生き続けていたのは、彼女たちのあの背中を見送るためだったようだ」


ライオンは何も答えない。しかし老人の言葉はしっかりと聞いているようだった。


挿絵(By みてみん)


アンドリューはふと遠い昔に思いを馳せた。

自分がこのジャングルに足を踏み入れたのは、一体どれだけ前のことだっただろうか。全てを失い、傷ついてここに辿り着いた。


復讐は連鎖させてはならないと誓いながらも、自分はここにただ居ることしかできなかった。時間は流れ、傷は癒えたかのように思えたが、心の奥にはいつまでも渇きが残っていた。

そんな自分の前に、数十年を経て現れたセルヴィオラの娘たち。彼女たちは、復讐の鎖を断ち切り、過去の因縁に別れを告げた。彼女たちの背中を押すことができたと誇っていいのだろうか。


「いや、そんな偉そうなことを言える立場ではないな」


アンドリューはかすかに笑うと目を細め、小屋の中へと戻っていった。


白いライオンはそれを見送ると、いつもの平らな岩の上で丸くなって眠りについた。


(第2部 完)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

第一部も長かったけど第二部はさらに長かった・・・

「復讐の連鎖を断つ」これが第二部のテーマでした。これは作品そのもののテーマですが、第三部はもっと別なこの物語を思いついた発端を描きます。できるかな、やればできるさ。


次話、第三部に入る前に総集編的なもの、間奏インタールードを少し挟みます。余韻に浸りつつ第三部の予兆を楽しんでいただければ幸いです。

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