第20話「断たれた鎖」 - 5
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
タリーサとアンナは数カ月ぶりに再びジャングルへと足を踏み入れていた。ジャングルの奥深く、上流に続く川の先に、エルドムイ家の家長であるアンドリューが暮らしている。
「じゃあ、申し訳ないけどここで待っててください」
ジャングルの手前の小屋で馬車を止め、アーノルドとエミリーに留守番を頼む。
以前この場所を訪れたときは、アーノルドと共にジャックもいたが、今では彼の姿はない。タリーサは少しだけ胸が痛むのを感じながらも、顔には出さずにジャングルの中へと視線を向けた。
鬱蒼とした木々が生い茂っている。まるで緑の洞窟をくぐるかのように、二人は湿気を帯びた森の中へと足を踏み入れる。木々の葉が天井を覆い尽くし、わずかな陽光が緑のフィルターを通して淡い光の斑点となり、足元に点々と落ちている。ジャングルの空気はむせかえるほど重く、地面を這う蔦や茂みが姉妹の前進を阻むかのように絡みついてきた。
「お姉様、アンドリュー様に真実を全てを伝えるのですか?」
アンナは背後のタリーサに目を向け、不安げな表情を浮かべる。
「うん。私はアンドリュー様に何が起きたのかを知りたいだけだと伝えた。お父様のことはまだ分からないままだけども、エルドムイ家とセルヴィオラ家の間で何が起きたのかはほぼわかった」
タリーサはそう言って足元を注意深く見ながら進んでいた。ジャングルの中は小さな石や木の根が無数に張り巡らされており、一瞬の油断が命取りになりかねない。
「アンドリュー様に伝えなきゃいけないし、彼はそれを知る権利があるわ」
木々の間から視界が開け、前方に小さな小屋が見えてきた。姉妹は少しだけ歩みを早める。
「やっと小屋が見えてきた。もうすぐですわね」
アンナは息を切らしながらも、嬉しそうに声を上げた。
「待って! 白いライオンは? 小屋の前の岩にはいないわ」
前回この場所を訪れた時には、小屋の前の大きな平らな岩の上に、老いた白いライオンの魔物が悠然と横たわっていた。その異様な存在感と力に圧倒された記憶が蘇る。しかし、今はその岩には何もいない。
「どうしたんだろう・・・」
タリーサは周囲を見回しながら、慎重に小屋の方へと歩み寄る。
小屋には誰も居なかった。
何か異変があったのではないかという不安が胸をよぎるが、心を落ち着かせて考える。もしアンドリューが出かけているのであれば、あのライオンも彼と共に行動しているのかもしれない。
「そっか。白いライオンはアンドリュー様と一緒に出かけてるのか」
2人は小屋の前でしばらく待つことにした。
風が生ぬるく頬を撫で、ジャングルの深部からは見知らぬ鳥たちの不気味なさえずりがかすかに聞こえてくる。時間が経つにつれ、静寂が深まり、姉妹はただ互いの存在を感じながら息を潜めた。
数時間が過ぎた頃、遠くから鈍い足音が聞こえ、葉を掻き分ける音と共にアンドリューは戻ってきた。
隣には、かつて見た白いライオンの魔物が、やはりどっしりとした威圧感を纏って並んでいる。その獣の瞳はただジッと姉妹を見つめていた。
「セルヴィオラの娘たちか。妹には会えたかね?」
「ご無沙汰しています、アンドリュー様。はい、メーガン・・・さんに会うことが出来ました」
タリーサは深く頭を下げ、丁寧に返事をした。彼の問いに答えるために、ゆっくりと顔を上げると、その表情にはどこか痛みを伴った決意が浮かんでいる。
「その顔を見ると、楽しくお茶を飲んだわけではなさそうだな」
アンドリュー老人は穏やかな目つきで彼女たちを見つめた。
「中に入りなさい。ここで話すには少し長くなりそうだ」
(続く)
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★あとがき★
第二部は主人公の実家セルヴィオラ家とエルドムイ家の100年に渡る因縁の物語です。
となると最後はここに戻ってこなければなりません。
次回、第二部最終話。タリーサとの対話でアンドリュー老人が見たものは。