第20話「断たれた鎖」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
「エルドムイにとっては偶然が都合よく重なった。裁判は狙い通りセルヴィオラを厳しく罰して、お家取り潰しという答えを出した。貴族ではなくなった一家が襲われても大した話にはならないから、襲撃は当初の想定以上にやりやすくなったのだろう」
あれは・・・そういうことだったのか。
タリーサの脳裏に10歳の時の記憶が蘇る。家族の誰よりも早く、お爺様は全てを察していた。お爺様は焦り、築き上げてきた財産をなんとか持ち出そうと必死だった。
貴族という鎧を失えば、襲撃を受けても何の保護もされない。それどころか、貴族として名誉を守ってきたことが今度は刃となり、報復の標的になる——。セルヴィオラという家は、その地位を築くために多くの敵を作り、恨みを買ってきたということ。
それを知っていたからこそ、お爺様はあの夜、あんなにも慌てていたのだ。
「さらにその数日前には、お前たちの父ルーファス・セルヴィオラ聖騎士団長が暗殺されている。襲撃者はさぞ胸を撫で下ろしただろうな。ルーファスが生きていたら襲撃自体失敗したかもしれない。それくらいにお前たちの父親は強かった」
タリーサは自分の家がまったく潔白ではないことを改めて思い知り、ショックで打ちひしがれていた。
それでもなんとか声を絞り出す。
「やはり・・・父の死とエルドムイ家は関係ないのですか?」
「断言はできないが、関係無さそうに見える。エルドムイがやるとしたら実家襲撃のように軍勢を率いて戦いを挑んだだろう。そうでもしなければ返り討ちに遭うのがオチだ」
タリーサは無言で、じっとマリアの言葉を噛みしめた。
マリアの推測は現実的だ。確かに、父と副団長リリーを一度に討てるほどの力を持つ者は、ただの没落貴族ではありえない。彼らは王都内で、しかも聖騎士団の目をかいくぐって殺された。その巧妙さは、エルドムイ家の粗野なやり方とは対極にある。
「しかし、ルーファスは王都内で殺されている。さらに実力で双璧をなす副団長リリーも一緒に死んでいる。この2人は没落した貴族ごときが手出しできる相手ではない」
タリーサは肩を落とし、無意識のうちにこぼれ落ちそうになる涙を堪えた。
彼女の頭の中は混乱と焦りでいっぱいだった。自分の家族が滅ぼされた原因が少しずつ明らかになっているのに、肝心の父親の死の謎だけが未だに霧の中に包まれている。その事実が彼女の胸に重くのしかかる。
「唯一、行方がわからないスコットが気になるが・・・」
マリアがぽつりとつぶやく。
トーマスはそれを聞き逃さなかった。
「他の兄弟のその後は分かっているのですか?」
彼の声には、真実を見逃さまいとする切実さが滲んでいた。
マリアは後ろに立つレイモンドから資料を受け取ると読み上げた。
「長男アンドリューはジャングルの奥地で世捨て人になって暮らしているそうだ。次男スコットの行方は全く分からなかった。三男ダニエルは数年前に病死している」
その名前を聞いてタリーサはハッとして顔を上げる。
「アンドリュー様に会いにいかなくては!」
タリーサとアンナは既にジャングルを訪ねて、長男のアンドリューと会っていた。
兄弟で唯一復讐に反対した人。復讐の連鎖は断ち切らねばならないと説いた人。
彼にはここまでの顛末を報告しなければならない。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
タリーサが10歳の時に見た異変がなんだったのかを知る回でした。
※予約投稿が失敗してまして昼掲載になってしまいました。申し訳ありません。
次回、タリーサとアンナは再びアンドリューの元へ