第20話「断たれた鎖」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
数日してタリーサは、マリア伯爵に呼び出された。
3姉弟は重々しい空気の中、マリアの執務室に通され、指示されるままに豪華な椅子に座って待機していた。壁際の大きな窓から柔らかな光が差し込んでいるが、その明るさが逆に不安を掻き立てる。いつも冷静なタリーサも、この時ばかりは指先を小さく震わせ、じっと膝の上で組んだ手を見つめていた。
「今日はどういう話かしら?」
彼女は小さな声で弟に尋ねた。
「さあ・・・変な話じゃなきゃいいんだけど・・・」
トーマスも不安そうだ。
そんな中、アンナだけは全く違う反応を見せていた。
「あ!そうだ! マリア様にイルファリオン先生の話をまだしてなかったわ! あ、ダメだ! あれは前世の話だった~」
彼女は全く緊張感を感じさせず、朗らかに笑っている。
その笑顔は無邪気で、姉弟が抱える不安など微塵も共有していないように見えた。むしろ、アンナはマリアとの会話を楽しむことに気持ちが集中しているようだ。彼女の高揚した声が場違いに響き、タリーサとトーマスは思わず顔を見合わせる。
そこへマリアがレイモンド執事を従えて部屋に入ってきた。彼女の登場とともに部屋の空気が張り詰め、3姉弟は息を飲む。
「メーガン・エルドムイたちが何をしてセルヴィオラ家襲撃を実行したのか、ほぼ分かった」
マリアの静かな声が執務室に響き渡る。
「えっ……?」
タリーサは驚愕の表情で身を乗り出し、トーマスも信じられないという顔をして彼女を見つめた。これほど短期間で情報を手に入れるとは……カルメサス家の諜報能力はどれほど強力なのだろうか。
「教えて下さい、伯爵!!」
タリーサは身を乗り出し、彼女の瞳には覚悟と期待の光が浮かんでいた。
「エルドムイ家の兄弟は、4人いる。長男アンドリュー、長女メーガン、次男スコット、三男ダニエル。メーガンはドウヴェイン侯爵の妻になり、スコットは失踪、そしてダニエルは・・・セルヴィオラ家に潜り込んだ」
「え! セルヴィオラ家に!?」
タリーサの顔が驚愕で歪む。脳裏には、かつての使用人たちの顔が一瞬、思い浮かんだ。あの中にエルドムイ家の人間がいたのか?
「ああ、そうだ。名前を変えてセルヴィオラ家に仕え、数年後にはリダニウ鉱山の会計担当になっていた」
妙な安堵に包まれるタリーサ。鉱山の会計担当ならば会ったことはない。
しかし、身内を陥れるために何年もかけて家に潜り込むなど、普通の人間には考えられない執念だ。その悪意の深さに戦慄し、体が震えるのを感じた。
「ただ勘違いするな。リダニウ鉱山の不正会計はダニエルが就くはるか前から起きていた。ダニエルは不正会計に気づき、それをより派手に膨らませてセルヴィオラ家の罪を重くしていたようだ」
「この不正を告発し、さらにドワーフ族を焚き付けて、事件を大きくするのが最初の計画だったわけだ」
マリアの語り口は淡々としているが、その一言一言がまるで刃のようにタリーサの心に突き刺さる。彼女は知らず知らずのうちに拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。
「同時に彼らは軍備を整えていた。裁判の結果がどうなろうとセルヴィオラ家を襲撃するつもりだったのだろう」
トーマスとアンナは唖然としたまま黙って聞いている。
当時自分たちは母アイリーンのお腹の中にいた。母の身の回りにはこんなにも悪意が蠢いていた。
(続く)
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★あとがき★
エルドムイ家がどんな復讐を遂げたのか、これをどう判明させるか迷ったのですが小難しい話をとっとと終えたくてカルメサス家が調べ上げたことにしました。
次回、しかし気になるのは父ルーファスに何が起きたのかなんです。