第20話「断たれた鎖」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
平穏な生活が戻ってきた。少なくとも表面上は。
タリーサたちは燃えた家を引き払い、新しい部屋を借りて生活を再建し始めていた。
タリーサ自身も、グレースの元での朝稽古を再開し、午後は劇場に出演するという慌ただしい日々に戻っていた。あの混乱の日々が嘘だったかのように——だが、心の奥では常に警戒が解けない。
ある日、劇場に向かう道すがら、彼女の前に現れたのは、黒衣を纏った一人の老紳士だった。
「ドウヴェイン家の者でございます」
一瞬、身構えるタリーサ。
「お仕事に向かう中、大変恐縮なのですが少しお時間をください。こちらへ」
紳士は慇懃な態度を崩さず、タリーサを誘導する。彼女は一瞬だけ立ち止まり、周囲を見回したが、やがて老紳士の後を追った。目の前には屋敷の陰に停められた一台の馬車。黒く光る塗装と、車体に刻まれた家紋が、貴族の威圧感を物語っていた。
中に入ると、そこにいたのは予想もしていなかった人物だった。
「侯爵!」
驚きとともに、タリーサは息を呑んだ。
ドウヴェイン侯爵は彼女の反応に軽く頷き、席を勧めた。
「時間を取らせるつもりはない。端的に伝える。メーガンはセルヴィオラを陥れるため暗躍していた。それは17年前のセルヴィオラ家襲撃に繋がっている」
彼は低い声で言葉を切り出した。
「妻はエルドムイの兄弟たちと綿密な計画を立ててセルヴィオラ家の不正会計を暴き、爵位剥奪が決まった瞬間に襲撃作戦を決行させた」
タリーサの呼吸が一瞬止まった。緊張に強張った手がわずかに震え、体温が急速に冷え込んでいく。やはり、そうだったのだ。
「父は? ルーファス・セルヴィオラを暗殺したのも夫人の計略なのですか?」
「いや、何度も問いただしたが団長の暗殺には一切関わっていないと言っている。むしろあの襲撃を準備していた最中にお父様の訃報を聞いて決行を早めたそうだ」
ある程度予想していたとはいえ、タリーサは絶句した。
セルヴィオラ家は偶然にも複数の悪意に襲われ、父は死に、家自体も滅ぼされたのだ。
「そんなことって・・・」
絞り出すような声が馬車の中に響いた。
「以上だ。お父様の事件について当家からお伝えできることは何もない。我々がここで会ったことはこの馬車を出た瞬間に忘れてほしい」
侯爵の口調は冷ややかで、余計な詮索を封じるかのような重みがあった。
「待ってください。メーガン夫人は今…どうされてるのですか?」
タリーサは思わず食い下がった。侯爵は眉をわずかにひそめ、彼女を見据えた。
「それは貴女には関係ないことだが・・・メーガンが再びあなた達に何かすることは無い。安心してほしい」
その言葉には、かすかに哀しみの色が混じっていた。
「彼女はすっかり意気消沈して、もう抜け殻のようだよ。年齢も年齢だ。そう長くはないだろう。私の妻となりドウヴェインの者として生きていくと話していたのに・・・私は彼女の心奥深くで煮えたぎる復讐心を見抜けなかった。それだけが残念でならない・・・」
その吐露にタリーサは言葉を失った。ただ、侯爵の目に浮かぶ憂いの色を黙って見つめることしかできなかった。
彼女が馬車を出ると、すぐに車輪が動き、音もなく去っていった。遠ざかる馬車を見つめながら、タリーサは息をつく。
2つの事件のうち1つはおおよその真相がわかった。
しかし、未だに父ルーファスに何が起きたのか、誰が何をしたのかが分からない。
(続く)
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★あとがき★
ドウヴェイン侯爵にはいつも哀愁が漂いますね・・・妻の裏の顔に気付けないまま何十年も過ごしていたことを知った時はさぞかしショックだったでしょう。
次回、カルメサス家の調査によってさらに事件の詳細が判明します。