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第19話「マリアの思惑」 - 3

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

「お久しぶりです、マリア伯爵。伯爵のお館に呼ばれるのは珍しいですね。今日は急な用事だとか」


膝をつき、軽く頭を垂れると、紫の鎧がかすかに擦れ合う金属音を響かせる。

訓練中に呼び出しを受けたグレースは、軽装の甲冑を着たまま現れた。


挿絵(By みてみん)


「久しぶりだな、グレース。聖騎士団の遠征は試練続きだと聞いている。国の為によく頑張ってくれているな」

マリアは彼女を一瞥し、軽く口角を上げた。


「今日はこいつらがお前の話を聞きたいと言っているから来てもらった。入れ」


マリアの指示で隣の部屋のドアが開き、タリーサとトーマスが入ってきた。


「タリーサ様! ここにいらしたのですか!?」


毎朝グレースの家に稽古に来ていたタリーサが急に来なくなって心配していた。

彼女はここに至るまでの事情を話した。神妙な顔つきでグレースはその話に耳を傾けている。


「・・・それで、今またアビゲイル様をお疑いになってるのですね?」


聖騎士団長の瞳には複雑な感情が揺れ動いていた。


枢機卿、教会の高位聖職者たち。彼らは神の言葉を司り、この国の精神的支柱でもある。長年、信仰と伝統を守り続け、国民からも畏敬の念を抱かれてきた存在だ。そんな教会の一員を疑うことは、すなわち国の根幹を揺るがすことにも等しい。


「はい・・・あってはならない話をしているのは承知しています。だからこそグレース様に当時のことを教えてほしいのです」


タリーサも自分が口にしていることの危険性を理解している。

しかし、マリア・カルメサス。この伯爵だけは違った。


「ということだ。ラルフ団長がアビゲイル枢機卿を襲ったときのことを私にも教えてくれ」


合理主義者である彼女にとって、真実を追い求めることに禁忌など存在しない。マリアはただ、可能性の一つとしてアビゲイルを疑うことを冷静に見定めているだけだ——それが彼女の強さであり、恐ろしさでもあった。


グレースはしばらく目を閉じて考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「最初に申し上げておきますが、私はアビゲイル様がルーファス団長暗殺の首謀者だとは微塵も思っていません。2人は信条も近くて良く話し合う姿を見ていましたし、ラルフ団長は・・・あの時錯乱状態でした」


「本当に錯乱状態だったのでしょうか?」

タリーサも可能性を一つ一つ潰すつもりでフラットな思考を努める。


グレースは小さく頷き、続けた。


「ラルフ団長は『アビゲイル様が聖典を城の外に持ち出している。国を裏切っている』と訴えていました。でもそんな事は起きていなかったのです。保管庫に聖典は全て揃っていました」


聖典の保管庫の中に入れるのは、教皇、枢機卿と聖騎士団長だけ。グレースは事件の後、ラルフの言葉が気になって保管庫に入って聖典を確認していた。


「よく分からんな。話が本当だとしてラルフ団長がなぜそんな事に気づいたのか。枢機卿は何のために聖典を持ち出すのか」

マリアは無表情で呟いた。


グレースは即座に首を横に振った。

「いや・・・だからラルフ団長はおかしくなっていたのです。ルーファス団長を殺した真犯人は別にいますよ、絶対に」


議論は平行線を辿った。

今ある情報では何も判断できない。マリアはその場の空気を読み取ったかのように、ふっと笑みを浮かべる。


「なるほどな。どうやらまだ、話が足りないようだ……」

彼女の声が静かに執務室に響き渡った。


「私の方でラルフ団長の遺族を探す。グレース、時間を取らせて悪かった。今日のことはお前の胸の内にしまっておいてくれ」


彼女の声は冷静で抑揚がなく、淡々としている。それに対し、グレースは深々と頭を垂れた。彼女の動作は機械的で、聖騎士団長としての立場を示す儀礼的なものだが、その態度にはわずかな躊躇いの色が見え隠れしていた。


「はい、もちろんです。ただ…伯爵、タリーサ様」


グレースはゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐに二人を見据えた。


「枢機卿を糾弾されるならば、確固たる証拠と相応の覚悟をお持ちください。さもなくば、私の刃は皆様に向くことになります」


タリーサは息を呑み、トーマスは姉の後ろで身を竦めた。

その言葉は静かでありながら、鋭利な刃のように鋭く、冷え切った空気の中でひときわ強く響いた。自分たちの目の前にいるのは、教会の守護者として正義を貫く決意を持った聖騎士団長だ。


マリアは薄く笑い、手のひらをわずかに広げてみせる。


「もちろんだ、グレース。誰も証拠なしに動くつもりはないよ。ただ、アビゲイルの無実を証明するためにも、真実を明らかにする必要があるのだ。そうだろう?」


彼女の声は柔らかいが、目の奥には冷たい光が宿っていた。


(第19話 完)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

第3部の中心となる3人がそれぞれの立場を表す回となりました。

父殺しの犯人を見つけたいタリーサ、彼女を支援するがその裏には何かありそうなマリア、聖職者を守護する義務を全うしようとするグレース


次話、第2部完結へ。タリーサは再びジャングルに戻ります。

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