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第19話「マリアの思惑」 - 2

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

タリーサはトーマスの部屋に通され、2人で寝ることになった。

彼の部屋は1人で使うには贅沢すぎるほどの広さで、重厚な家具がゆったりと配置されている。大きなクローゼットに鏡台、壁際には手の込んだ彫刻が施された調度品の数々が並び、どれもこれも高級な作り。


タリーサはベッドに腰掛けると、その柔らかさに思わず声を漏らした。


「羨ましい。あなた毎日こんなフカフカなベッドで寝てるのね」


彼女はぽふぽふとシーツを叩き、深々と沈み込む感触を確かめている。久しぶりの安らぎに、彼女の顔にはほんの少しだけ微笑みが浮かんだ。


挿絵(By みてみん)


「姉さん、そんな事は今はいいよ」

トーマスはわずかに頬を緩めたが、すぐにその表情を引き締めた。こんな時でも楽しげに振る舞おうとする姉にどこかほっとしながらも、複雑な気持ちになる。


「それより、流れでマリア伯爵に素性を話しちゃったけど大丈夫なのかな?」


ベッドの端に腰掛けたトーマスは、姉の横顔を伺う。タリーサはその問いに落ち着いた声で答えた。


「伯爵の言う通り、既に私たちは彼女の手の中よ。隠すだけ無駄だと理解したから正直に話したわ」


彼女は少しだけ肩をすくめ、まるで運命を受け入れたように小さく笑った。


「これで殺されるなら早速刺客が来るんじゃない? アンナは向こうに握られてしまってるし、詰んだわね」


彼女の言葉には、自嘲にも似た乾いた響きがあった。あまりに淡々とした口調に、トーマスは思わず眉をひそめる。


「・・・なんでそんなに達観してるのさ?」


「ここ数日、激動すぎてもう疲れちゃった」


彼女は肩を落とし、ゆっくりと髪をかき上げた。


「辛いこと、痛いこと、悲しいことばっかり。挙げ句にジャックを死なせてしまった・・・」


言葉を切るとタリーサは押し黙った。

彼がもういない事を思い出し、急に胸が締めつけられたからだ。


「そういうことだから、今は寝ましょ!」

わざと明るく言い放ち、布団に潜り込む。彼女の背中は小さく丸まり、小動物のように見えた。


「ああ、それにしても柔らかい、溶けるように眠れそう」


そんな様子を見て、トーマスは不意に頬が熱くなるのを感じた。姉と一緒に同じベッドで寝るなんて、やはり恥ずかしい。けれど、それでも姉とこうしていると、心の中でくすぐったい温かさが広がる。


そんなトーマスの葛藤をよそに、やがてタリーサの穏やかな寝息が聞こえ始めた。


◇ ◇ ◇


翌朝。

アンナの顔色は驚くほど落ち着いていた。昨夜まで高熱にうなされていたのが嘘のようだ。薬草の匂いが微かに漂い、部屋全体が清々しい空気に包まれている。

「伯爵家の薬師が解熱に成功しました」というオリビア侍従の言葉に、タリーサは胸を撫でおろした。


タリーサとトーマスは再びマリアの執務室に呼ばれた。


「ドウヴェイン侯爵が全てもみ消したようだな」


マリアは机に肘をつき、指先で優雅に頬を撫でながら言った。


「あれだけの事件が起きたのに今朝はもう沈静化している。憲兵もきれいに引き下がったようだ」


姉弟は顔を見合わせる。たった一晩でそんなことができるとは。ドウヴェイン侯爵の影響力の大きさに戦慄を覚えた。


「さて、今日になってもお前たちが生きているということは、私は事件に関係ないか、実は黒幕なのだがまだ泳がせているかのどっちかだ」


2人に緊張が走る。

マリアはそんな様子を愉しむかのように、ニヤリと笑みを浮かべると、あっさりと肩をすくめた。


「・・・という展開だと話は面白いのだろうが、残念ながら私は17年も前の事件に今はもう興味がない。私が興味あるのはこの国をどう良くするかだけだ」


マリア伯爵は立ち上がると部屋の中をゆっくりと歩き始めた。


「お前たちが王都で派手に暴れるならば、捕らえて八つ裂きにするし、枢機卿の悪行を暴くならばそれを見届けよう。ただアビゲイルが黒幕だと決まったわけではないぞ? 迂闊に手を出して濡れ衣だったらお前たちは即縛り首だ」


恐ろしいことをニヤニヤしながら話すマリア伯爵は、本当は魔女なんじゃなかろうかとトーマスは心の中で思っていた。


「で、お前たちは次に何をしたい?」


マリアがこの質問に興味があるのか無いのか計りかねた。

しかし、タリーサは自分の思いを率直に告げた。


「ドウヴェイン侯爵はきっとメーガン夫人から真実を聞き出しているはずです。それを私たちも知りたいです」


伯爵はタリーサに向き直る。やれやれという表情だ。


「ドウヴェインをこれ以上つつくのはやめろ。彼に会ったなら分かっているだろう。バカがつくほどの愛妻家だ。まだ近づいてくると知ったら次はお前たちも消されるぞ。時期を見て私が聞き出してやる」


「だったら何を・・・」


「もう1つの可能性はアビゲイルなのだろう? そっちを当たれ」


「え、マリア様以前『枢機卿は触るな』と仰っしゃられたじゃないですか」


トーマスが驚いた声を上げた。


「お前たちがセルヴィオラ家の生き残りだというなら話は違う。父の無念を晴らす大義がある」


マリアのその声にはわずかに熱がこもっていた。

その言葉にタリーサの顔は晴れ渡ったが、トーマスは直感的に不安を覚えた。


(おかしい。どうして急にこんな心変わりを?)


「マリア様、私たちに何をさせたいのですか?」


「ふ、知らんな。仇討ちは応援してやると言ってるんだ」


(いや、絶対に他の狙いがある)

トーマスは心の中で呟いた。

合理主義のマリアにとってムダは敵だ。かつて彼女が枢機卿のことを『必要だがムダな存在』と評したのを思い出した。彼女は国を良くするために教会を切り崩したいのではないか?


しかし、今は彼女の話に乗るしかない。


「仇討ちを応援してくれるとは、具体的に何を?」


「話を聞いてやる」

マリアは淡々と言い放った。


「は?」


「お前たちじゃ見えないが、私なら見えることがたくさんある。まずは当時の話を集めて持って来い」


「それであれば聖騎士団長グレース様をここに呼んでください」

タリーサは即答した。

「彼女はラルフさんがアビゲイル枢機卿に襲いかかるのを目の前で見ています」


「良かろう。レイモンド、グレース団長を呼べ。すぐにだ」


レイモンド執事は一礼し、静かに部屋を出ていった。


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

2500文字弱いってしまいました。もうちょい台詞の応酬を減らせれるのかなぁ・・・

などと思いつつ、夜と朝の場面を描きました。三姉弟とマリアとグレースが揃う日が来ました。


次回、伯爵に呼ばれた聖騎士団長グレースは・・・

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