表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/259

第19話「マリアの思惑」 - 1

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

タリーサ(ターニャ)たちの家が燃えている。

その情報は弟トーマスが住み込んでいるカルメサス伯爵家も知ることとなった。


マリア伯爵は男女関係なく、見境なく、毎晩誰かを部屋に呼ぶか、相手の部屋に夜這いしている。

この夜も例外ではなかった。


彼女の艶やかな髪が敷き詰められたシーツに絡み、しなやかな体が闇の中で微かに動いていた。肌は月明かりを浴びて白く輝き、どこか冷たい美しさを帯びている。

対照的にマリアの腕の中にある侍従オリビアの顔は薄紅色に染まっており、羞恥と欲望の入り混じった表情がそこにあった。


コンコン、とノックの音。


「申し訳ございません、マリア様。至急お知らせしたいことが」


ドアを開け、レイモンド執事が入ってきた。

オリビアは慌てて布団の中に身を縮めた。

いつものことだが、レイモンドは気遣いなくいきなり部屋に入ってくる。


「構わん。どうした?」


彼女はオリビアを気にする素振りも見せず、すぐさま仕事モードに切り替え、起き上がった。

レイモンドの報告を聞いて、すぐさま彼女は事態の異常さを理解し、部下に指示を出す。


「レイモンド、ターニャたちを探して連れてこい。厄介事に巻き込まれているようだ」

「オリビア、話は聞いたな? 服を着てトーマスを起こしてこい」


「承知しました」

オリビアは服を掴み、すぐに着込むと部屋を飛び出した。廊下にはロウソクの灯りがぼんやりと揺れていて、彼女の足音だけが響いていた。


◇ ◇ ◇


ドウヴェイン侯爵が妻メーガンを連れて帰った後、レイモンドの捜索隊がタリーサたちを見つけて収容した。その時既に忍者2人は捜索隊の目を掻い潜って闇夜に消えていた。


アンナの発熱はまだ続いており、別室で介抱されている。


マリアは、タリーサと起きてきたトーマスを執務室に呼んだ。


「夜中にすまんな。率直に聞く。お前らは一体何をしてるんだ?」


マリアの声が静かに響く。


「家が燃やされ、姉妹が襲撃され、郊外で集団同士の戦闘まで起きたそうじゃないか。ここまでの事態になると、いい加減お前たち三姉弟が何をしているのか、聞かせてもらわねばならないぞ」


トーマスは視線を下に落とし、タリーサはぎゅっと拳を握り締める。

2人とも何も言えず、沈黙が支配した。マリアの苛立ちがじわじわと膨れ上がり、彼女の顔には怒りの影が浮かび始めた。


バン!

突然の音が部屋中に鳴り響き、2人の肩が小さく跳ねた。

マリアの手は机の上に叩きつけられ、書類がわずかに跳ね上がる。


「私が敵ならば、トーマスがこの家に来た時点でお前たちの運命は決まっている! 観念して話せ!! 無駄な時間を使わせるなっ!!」


挿絵(By みてみん)


これ以上は隠し通せない。

そう悟ったタリーサはゆっくりと口を開いた。


「マリア様、私の本名はタリーサ・セルヴィオラと申します」


その言葉を聞いてマリアは目を見開く。信じがたいという表情で彼女を睨みつけるその目には、今まで見せたことのない激しい驚きが宿っていた。


「なんだと・・・お前たちはセルヴィオラ家の生き残りなのか・・・」


マリアもかつて17年前に起きたルーファス暗殺事件、セルヴィオラ家襲撃事件について調べていた。

しかしいくつかのピースが埋まらず、真相に辿り着けていなかった。


「2つの事件のうち、セルヴィオラ家襲撃事件の黒幕はおそらくエルドムイ家です。当時何をしたのかは分かりませんが、エルドムイからドウヴェイン侯爵に嫁いだメーガン夫人は、私たちに激しい憎悪をぶつけてきました」


今夜起きた火事や郊外での戦闘はメーガンの手によるものだった。

タリーサの声は抑えられていたが、微かに震えていた。真正面から煮えたぎるような憎しみをぶつけられた。100年にも渡る両家の因縁の深さを思い知った夜だった。


「父ルーファスを暗殺したのもメーガン夫人かもしれません。しかし夫人に会った時に彼女から父の話は出てきませんでした。そこが不思議です」


トーマスが姉の話を継ぐ。


「マリア様、僕らは別の可能性も考えています。ルーファス団長の後を継いだラルフ団長は、アビゲイル枢機卿が犯人だと訴えていたらしいのです」


「アビゲイルが?」

驚きが表情に滲み出る。マリアは視線を外し、天井の一点を見つめるように考え込んだ。


「2人は仲が良かったと聞いている。にわかには信じられないな……」


アビゲイル枢機卿は教会内でも影響力のある人物だ。彼女を敵に回すことがどれほど危険か、マリアは理解している。だが、もしこの少年たちの言葉が真実であれば、避けて通れない茨の道が待っている。


マリア伯爵はこの議論をいま続けるべきではないと判断した。


「一旦ここまでにしよう。明日また話を聞かせてほしい」


タリーサとトーマスは頭を下げ、ゆっくりと部屋を出て行く。扉が閉まる音がやけに響き渡り、執務室は再び静寂に包まれた。


「今になってセルヴィオラか・・・これは国を動かすチャンスが来たかもしれないな、面白いぞ・・・」


マリアは唇に微笑を浮かべ、ひとりごちた。

その笑みは、どこか危険なものを孕んでいるようにも見えた。


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

マリア、オリビア侍従と淫靡に過ごす。マリア、怒鳴る。マリア、ニヤリする。

明日もマリアとの対話が続きます。


次回、マリアが黒幕だと告白する!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ