第18話「因縁の決着」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
エミリーはこの3週間、若き聖騎士団員フェリックス・マルトゥリックの監視を続けていた。
タリーサは彼に自分の素性を明かしてしまった。
マルトゥリック家は17年前の事件でセルヴィオラ家が滅亡した後に、リダニウ鉱山の管理を引き取り、最も利益を得た貴族。
フェリックス本人は無関係でも、彼の父や兄が事件の首謀者である可能性がある。
もしセルヴィオラの娘が生きている事を漏らすようであれば、例えそれが主君が心を寄せる相手であっても、エミリーは容赦なく彼を葬るつもりでいた。
しかしフェリックスは一切そのような行動を起こさなかった。
彼はどこまでも誠実に振る舞い、最初から何も知らなかったかのようにタリーサの秘密を誰にも話さなかった。
彼は大丈夫だ、そろそろ主君のもとに戻ろう。そう考えた時には既に3週間が経っていた。
「だいぶ長いこと留守にしてしまったわね。タリーサ様たちは王都にまだいるかしら…」
いつもの癖で家の路地に反対側から入り込むと、出口の付近に誰かが倒れているのが目に入った。
体は血にまみれ、顔には布が掛けられている。
「なぜこんなところで…厄介ごとには関わりたくない…」そう思いつつも無視するわけにはいかない。
恐る恐る近づき、布を取ったエミリーは言葉を失った。
「ジャック・・・」
それは長年の盟友の骸だった。
冷たくなった体に、彼女はわずかなぬくもりを探して触れる。しかし、望んだものはそこにはなかった。
胸を刺されている。
壁の伝言板を見ると、2つのメッセージが書かれていた。1つは血で汚れ、解読に困るほど読みづらい文字で書かれていた。
「アンナ様は重傷。近くの茂みに安置。敵が監視している」
「アンナ様は救出済み。敵襲に備えよ」
ジャック、そしてアーノルドからのメッセージだ。
事態を理解したエミリーの動きは早い。
人目を盗んで建物に入ると、音もなく階段を駆け上がり、自室に滑り込む。
窓越しにタリーサたちの部屋を覗く。
そこにはタリーサ、アーノルド、そして壁に寄りかかって辛そうな顔をしているアンナが見えた。
タリーサとアーノルドはドアをこじ開けようとする賊と攻防を繰り広げていた。
ドアに立てかけたベッドをアーノルドが押さえ、手を伸ばしてくる相手をタリーサが斬りつけて追い払っている。
エミリーは窓に向かって小石を投げた。
「カチン」と小さな音が響くと、アーノルドがその音に気づいてこちらを見て、驚いた後、ニヤリと笑った。
手ぶりで合図を送ると、エミリーは弓矢を取り出し、矢にロープを結んで放つ。
それをアーノルドが受け取り、部屋のフックに結ぶと、スルスルとロープ伝いにエミリーが渡ってきた。
「エミリー!」
それに気づいたタリーサが思わず叫ぶ。
アーノルドはベッドを背中で押さえながら、戻ってきた仲間にいつもの軽口をたたいた。
「いいタイミングで戻ってきてくれた。見ての通りの大ピンチだ」
「こんなのピンチでもなんでもないわよ。さ、アンナ様を向こうに運ぶわよ」
エミリーと交代して、アーノルドがロープを伝って忍者たちの部屋に渡る。
その間にエミリーはアンナの腰に別のロープを結び、部屋を結ぶロープに滑車をかけた。
「エミリー…帰ってきてくれたのね」
弱々しい声でアンナは再会を喜ぶ。目は赤く充血し、苦しげに呼吸を繰り返すその顔は痛々しい。
「アンナ様、大変お待たせしました。もう大丈夫ですよ」
アンナの体をロープに固定すると、アーノルドが力強く引っ張り、彼女の移動はあっさりと完了した。
その時、わずかに開いたドアの隙間から火がついた松明が投げ込まれた。
一瞬にしてソファに火が燃え移る。
タリーサが叫ぶ。
「火をつけられたわ!!」
エミリーは火に動じることなく今度はタリーサの腰にロープを結ぶ。
「タリーサ様、勝負の場はここではありません。脱出しましょう」
滑車をかけて彼女を窓から送り出す。
それを追って、エミリーはロープを伝って部屋を渡ると、部屋を結ぶロープを切り捨てた。
タリーサの部屋のドアが叩き壊され、人影が炎の中に飛び込んでくる。しかし燃え広がる火の勢いに彼らはたじろぎ、奥まで進入できない。
その頃にはタリーサたちは、忍者たちが常日頃用意している脱出ルートを進んでいた。
はるか遠くで煙を上げる家を見て、タリーサは呟く。
「まさかここまでやるなんて…」
(続く)
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★あとがき★
長らく別行動をしていた忍者エミリーが戻ってきました。
ジャックのメッセージを理解すると早速大活躍。頼りになります。
次回、またしても逃してしまったメーガン夫人は・・・