第18話「因縁の決着」 - 1
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ジャックが暗号で伝えた場所、川の土手にある茂みの中。
そこには、自然の中に完全に溶け込むように隠されたアンナの姿があった。
「アンナ!」
タリーサは、痛々しい姿に変わり果てた妹に駆け寄った。呼びかけに応じるように、わずかにアンナのまぶたが震えたが、返事はない。
彼女が腹と背中に負った深い傷には、秘伝の薬が丹念に塗り込まれており、炎症を防いでいた。その肌には薄っすらと湿り気が漂い、生命の鼓動が辛うじて続いている。
茂みの隙間から差し込む月の光が、アンナの血で汚れた肌に当たり冷たく輝く。川の水音がまるで生命の最後の瞬間を刻むかのように静かに響いていた。
「まだ間に合う、間に合わせる!」
タリーサは聖なる祈りと瞑想の守護神キラストリエに祈りを捧げ、回復の魔法を唱えた。
彼女の両手が淡く光り出し、暖かい光がアンナの体を優しく包み込む。
「あいつ、薬を全てアンナ様に・・・」
アンナに塗られた薬に気づいたアーノルドは、主君に全てを捧げた友を誇りに思いつつ、深い喪失感を噛みしめていた。
やがてアンナの顔に生気が戻ってきた。絶え絶えだった呼吸も徐々に安定し、安らかな吐息が聞こえるようになった。
「その薬がなかったらアンナはここに来るまで持たなかったわ。ジャック…ありがとう…アンナはもう大丈夫よ」
妹の頬に手を当てて、祈りが通じたことに安堵した。
しかし、すぐにアンナの異変に気づく。
「いや、早くベッドに寝かせないと。今度は熱が出てきた」
アーノルドは目を閉じ、込み上げてきた感情を押し殺すと、気持ちを切り替えるように言った。
「いい作戦を考えました。これなら潜んでいる奴らは手出しできないまま、アンナ様を部屋にお連れできます」
◇ ◇ ◇
準備を整えると、2人は気を失ったままのアンナを両脇から抱え、家へ向かった。
離れた路地からタリーサの家を監視していた男たちが2人に気づく。
「現れたぞ」「いや待て、様子が変だ」
アーノルドがバンバンと壁を叩きながら大声で叫ぶ。
「だぁいたいですね! ターニャさんがまだいけるって言って呑ますから、こんな事になるんですよ!!」
タリーサも負けじと、もっと大きな声で応戦する。
「なに言ってんのよ!! アーノルドさんがアンナを止めないから、この子限界超えて呑んじゃったんでしょ!! アンタのせいなんだからねっ!!」
騒ぎに気付いた近隣住民が明かりを手に外に出てきた。
「なんだなんだ」「うるせぇな! 何時だと思ってんだよ」「ターニャちゃんじゃねぇか、だいぶ酔っ払ってるなあ」
次第に騒動が広がり、どんどん人々が集まってくる。ご近所たちもぎゃあぎゃあと騒ぎ出し、ますます収拾がつかなくなった。
この様子を見ていた老戦士たちは、苛立ちを隠せなかった。
「これじゃ手出しできない…」
と、そこへ憲兵たちが馬に乗って現れる。
「お前たち! 夜中にうるさいぞ! 周りの迷惑も考えろ!」
憲兵を呼んだのはアーノルドだった。
あらかじめ「家の近くで大騒ぎしている奴らがいる」と通報しておいたのだ。
「お前たちが騒ぎの張本人か! 家はどこだ!? 早く帰れっ!!」
「す、すみません。家はすぐそこです。もう帰りますので勘弁してください!」
アーノルドは大袈裟に謝って見せる。その声がまた大きいものだから、憲兵に再度叱られる。
「よし、家に入ってドアを閉めるまで見届けるぞ。お前らみたいな奴は目を離すとまた外に出て飲み歩くからな」
狙い通りになった。
タリーサたちは近隣の住人と憲兵たちに見守られて、無事にアンナを連れて帰ることができた。
老戦士たちはこの茶番を指をくわえて見ているしかなかった。
家に帰るや否やアーノルドはドアの外と内側に罠を仕掛ける。
「ここまでやっておけば今晩は襲ってこないでしょう。アンナ様の容体はどうですか?」
タリーサはベッドにアンナを寝かせ、再び聖魔法の祈りを捧げていた。彼女の手のひらから、暖かく輝く光がふわりと広がり、アンナの傷を癒やし始める。
「薬と魔法で傷は治せそう。ただ熱が高くなってきているのと、体力がかなり削られているから、しばらくは安静にする必要があるわ」
アンナの頬は赤みを帯び、首元には汗が浮かんでいた。
(続く)
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★あとがき★
アーノルドの機転で無事自宅に戻ることができました。でもまだ戦いは終わりません。
ちなみに今回の挿絵画像は本当に苦労しました。まったく思い通りのものが描けなかった。。。
次回、怒り狂うメーガン夫人が次に命じたのは・・・