第17話「襲い来るメーガン」 - 6
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ジャックは近くの茂みにアンナを隠すと、限界を超えたその体に鞭打って、這うようにして忍者たちが住む家まで忍び寄った。
この家は通りを挟んでタリーサたちの家の向かいにある。
「あともう少し。もう少しの間、生きさせてくれ・・・」
声に出すつもりもなかった言葉が、無意識に口をついて出た。
命の灯火は今にも消えようとしている。
足を引きずりながら、彼は細い路地に滑り込んだ。彼ら忍者たちの伝言板として使われる壁がすぐそこに見える。
ジャックは最後の力を振り絞り、震える手で仲間への暗号を書き込んだ。
「こんなヨレヨレの文字…読めるのか? …読めるよな?」
全てを書き終えると、彼は壁にもたれかかり、その場に崩れるように座り込んだ。
視界は闇に包まれ、世界が遠ざかっていく。
もう一歩も動けない。指ひとつ動かせない。
暗闇に向かってジャックはゆっくり話し始めた。
「アーノルド、エミリー、後は頼んだ…」
「タリーサ様…私はここまでです。長年おそばに仕えられて…幸せでした…」
「必ずや…ルーファス様の…無念を…晴らしてください…」
「トーマス様、アンナ様…どうか…ご無事で…」
それが最期の言葉だった。
眠るように目を閉じ、ジャックはそこで事切れた。
◇ ◇ ◇
アーノルドの手を借り、タリーサは立ち上がった。意識を集中させて自分に魔法を掛ける。
聖魔法の光が彼女の体を包むと、顔の腫れが引き、肩・腕の傷が徐々に塞がっていく。
「ふぅ…アーノルド、ありがとう。今回はさすがに死んだかと思った。あの老騎士たち、強かった」
疲れ切った声で彼女は呟く。
「姫様、急いで戻りましょう。ローブを着た老人がこんなものを落として逃げました」
彼が差し出したのは、タリーサの家周辺の地図だった。
「これは…アンナが危ない!」
血相を変えてタリーサは駆け出した。アーノルドもそれに従う。
◇ ◇ ◇
自宅が見えたところで、アーノルドがタリーサを制止した。
「姫様、ここでお待ち下さい。あの路地の壁に我々の伝言板があります。先にそちらを確認します」
タリーサを待たせて、アーノルドは自分たちの家の建物に身を潜めて近づいていった。
数分後、戻ってきたアーノルドは目を真っ赤に腫らしていた。
「どうしたの?」
驚くタリーサにアーノルドは彼女を動揺させぬよう静かな声で話す。
「姫様、落ち着いて聞いて下さい。ご自宅の近くに敵が潜んでいます。また、アンナ様も襲撃を受け、重傷です。応急処置をして近くの茂みに隠れておられます。まずそこに行きましょう」
向かおうとするアーノルドをタリーサは困惑しながら引き止める。
「待って。ジャックはどこなの? アンナと一緒じゃないの?」
アーノルドは振り返らず、答えた。
「あいつは・・・一足先に旅立ちました。申し訳ありません、アンナ様を守るのが精一杯だったようです」
「え…」
そう話す彼の肩は微かに震えていた。それは長年苦楽を共にした友との永遠の別れを意味していた。
タリーサは静かにアーノルドの肩を抱いた。彼女の手がそっとアーノルドに触れた瞬間、彼が押さえ込んでいた感情が、微かにだが確かに伝わってきた。
「…行きましょう、アーノルド」
タリーサは小さく囁くように言うと、2人は来た道を戻っていった。
(第17話 完)
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★あとがき★
ジャック死す。彼ら忍者3人衆は、アンナがお腹の中にいる頃から常に近くで護衛をしていました。
ティレタル家から派遣されそのまま他家の未亡人とその子供たちを守り続けて17年、大変な人生だったろうなと思いを馳せちゃいます。キャラが去るのは寂しい。
次話、タリーサたちは妹を見つけますが、アンナは・・・