第16話「聖騎士団長グレース」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
無数のロープが張られた広間を横目に、タリーサは2階にある唯一の部屋、グレースの寝室に通された。
そこはまさしく寝室で、ベッドとサイドテーブル、衣服ダンスがあるだけの簡素な部屋だった。
タリーサが所在なさげに床に座ると、グレースは慌て始めた。
「えええ! タリーサ様、どうして床に? 椅椅子がなくて申し訳ないですが、どうぞベッドにお座りください。私が床に座ります!」
「や、やめてください。私はただの踊り子です。グレース様は王国の聖騎士団長。これでいいのです」
「いえいえ、絶対にダメです! ルーファス団長の忘れ形見であるタリーサ様を床に座らせるなんてできません!」
譲り合いが続き、一向に話が進まない。
「ふぅ…」とため息をついたグレースは、「下に降りましょうか。実は、この家に客を迎えたことがなくて、どう応対すればいいのか分からなくて…」と、弱々しい一面を見せたかと思うと、急に頭を下げて懇願した。
「それに…もう我慢できません! タリーサ様、どうか私と手合わせをお願いします!」
◇ ◇ ◇
グレースはどこまでも武人だった。
言葉ではなく、剣で語り合いたいのだ。タリーサが構えるや否や、グレースは満面の笑みで素早く剣を振り下ろした。
剣が交わる音が響く。
グレースは軽やかに剣を操りながら話し始めた。
「オーリンダール家は代々騎士を輩出してきた武家です。過去、聖騎士団長を務めた者も何人もいます。しかし、第12代聖騎士団においてルーファス団長、リリー副団長に敵う者は一族の誰もいませんでした。国中探してもいなかったでしょう。それほどに2人は最強だったのです」
グレースの剣撃がスピードを増す。
タリーサは防戦一方。これほどの速度と手数を持つ剣士と戦ったのは初めてだった。ジリジリと後ろに下がり始める。
なおもグレースは話を続ける。
「その2人がどうして…誰に殺されたのか。未だに分かりません」
ぐっと間合いを詰め、斬りかかってきた。グレースの剣をなんとか受け止めたと思った瞬間、タリーサは足を払われ、倒されていた。地面に打ちつけられると思ったその時、グレースの手がタリーサの腕を掴んでいた。余裕すら感じさせる身のこなしだった。
「ま、参りました…」
タリーサを引き起こし、グレースは再び間合いを取って構え、話を続ける。
「ラルフさんは、アビゲイル枢機卿が黒幕だと主張していました」
今度はタリーサが先手を取って斬りかかる。
連撃を繰り出しながらも会話は続けていた。
「その話は当時の聖騎士の方からも聞きました。ラルフ団長はなぜそう考えたのでしょうか?」
タリーサの攻撃はグレースの剣さばきで全て受け流されていた。ここまで力の差があるとは思わず、冷や汗が流れるのを感じた。
グレースは息を切らすことなく答える。
「…彼は錯乱状態でした。枢機卿が聖典をどこかに流出させている、国を裏切っていると主張していましたが、そのような証拠はどこにもありませんでした」
再び繰り出されたグレースの足払いを、今度は後ろにジャンプしてかわす。しかし宙に跳んだ瞬間、タリーサの腹にはグレースの剣柄が刺さっていた。タリーサは倒れて後ろに転がる。
「タリーサ様、跳ぶなら一気に間合いの外まで跳ばないと空中では無防備になりますよ」
わかっている。そのつもりで後ろに跳んだがグレースの踏み込みの方が遥かに深く速かった。
「さあ立って立って。もっとやりましょう!」
グレースは楽しくて仕方ないという表情で続きを待っている。
『剣士ターニャ』の名で知られたタリーサだったが、ベレンニア王国聖騎士団長グレースの前では全く歯が立たない。
どうすれば彼女に一矢報いることができるのか・・・
悩んでいる姿を見てグレースが構えを解き、優しく語りかけた。
「タリーサ様、王都に来るまでの間、いろんな戦場で戦ってこられましたよね? その時を思い出して、私にぶつけてください。大丈夫、私は受け止めます。この家も簡単には壊れません。まあ、天井は気をつけないと崩れますけどね♪」
その言葉を聞いて、タリーサの覚悟が決まった。
持てる力を全てグレースにぶつける、と。
(続く)
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★あとがき★
前回描けなかったグレースの家の吊り天井を挿絵に入れました。
そしてグレースの要望で2人は手合わせをすることに。無双で鳴らしたタリーサ(ターニャ)が全く手が出ません。上には上がいるのです。小説のタイトルを曲げちゃうことになるけど。
次回、タリーサは持てる力を全て出してグレースに挑みます。