第15話「種族間交渉官」 - 5
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ターニャが沈んだ顔で部屋に戻ってきた。どこか疲れた様子で、肩を少し落としている。
トーマスはマリア伯爵の許しを得て、3日間自宅に戻っていたところだった。
アンナが心配そうに声をかける。
「お姉様、どうでしたか?」
ターニャは少しため息をつき、疲れた表情のまま答える。
「真相にかなり近づいたと思う。でもドウヴェイン侯爵を怒らせてしまった。もう二度とあそこには行けないと思う」
トーマスが驚いて椅子から立ち上がる。
「なんでそんなことに!?」
ターニャは肩をすくめ、申し訳なさそうにする。
「近づいた、けど行き詰まった」
しばらく沈黙が流れる。気まずさを感じたのか、ターニャは話題を変えた。
「トーマスの方はどうだった?」
トーマスは額に手を当て、少し悩むように言う。
「枢機卿を調査することはマリア伯爵に止められた。彼女が何かを隠しているのか、僕らを気遣ってくれているのかは分からない。じゃあ代わりに伯爵の家系を調べようと思ったんだけども、聞ける相手がいないんだ。その代わりと言ってはなんだけどエルドムイ家に何が起きたのか分かったんだ。この話と合わせると事件の動機や経緯が見えてくるんじゃないかと思う」
ターニャはトーマスの言葉に興味を示し、少し体を乗り出す。
「それで、エルドムイ家に何が?」
トーマスは深く息を吸い、少し重い口調で説明を始めた。
「エルドムイ家は坑道爆発事件の責任を取らされて男爵に格下げされた。当主は強制的に引退させられ、領地も没収。名ばかりの男爵となったエルドムイ家は、親戚を頼って田舎へ引っ越したんだ。でも、そこからが悲劇の始まりだった…」
トーマスが話を続ける間、ターニャはその詳細に耳を傾ける。彼女の顔には、エルドムイ家の過酷な運命悲痛な表情が浮かぶ。
「元伯爵夫人は新しい生活に適応できず、自室で首を吊って亡くなってしまった。そして、元伯爵も次々と不幸が続き、やがて正気を失ってしまったんだ」
多くの不遇に遭い、さらに愛する妻を失ったエルドムイ元伯爵の言動は日に日におかしくなる。
小さなミスで侍女を処刑してしまったり、リダニウ鉱山の採掘を再開するよう指示して部下に止められ、その者を殺そうと切り掛かったり、最後は夫人を呼ぶよう執事たちに指示し続けたり。
遂には気がおかしくなってしまい、寝たきりの生活になってしまったという。
その息子にも不幸は続いた。
男爵家となったエルドムイ家はまだ貴族だったが、貴族界から排斥を受けて困窮していた。
エルドムイの息子に嫁のなり手はなく、仕方なく彼は侍女と結婚し3人の子を授かる。
しかし、その没落した噂が広まり、地に落ちた家として不遇な生活は続き、父母ともに病気で亡くなる。
残されたのがアンドリューたち3人だった。
ターニャは言葉を失っていた。
ジャングルでアンドリュー老人から言われた言葉「両親はセルヴィオラに殺された」の意味がようやく分かった。
アンナが目を大きくして驚く。
「それにしてもトーマス、よくそこまで調べたね」
トーマスは皮肉っぽく笑い、肩をすくめる。
「ふ、ふふふ。マリア様の夜のお供は大変だったよ…」
アンナは驚きと困惑が入り混じった顔で反応する。
「夜のお供!? トーマス、なにやってんの?」
彼は顔を手で覆い、少し顔を赤らめた。
「聞くな、アンナ。そこは触れないでくれ…」
ターニャは複雑な表情でトーマスを見ている。弟のことが心配でならない。
気を取り直して話を続ける。
「残念だけれど、セルヴィオラ家は他の家を押しのけてきた歴史があるんだね。特にエルドムイ家には酷いことをしてきた。恨まれる理由は十分にある。ただそうした状況を示す事実が並んでいるだけで実際に復讐されたのかは分からない。いまそれを問いただせる相手はメーガン・ドウヴェイン侯爵夫人だけども彼女に当たることはドウヴェイン侯爵に禁じられてしまった」
(続く)
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★あとがき★
100年前の事件以降、エルドムイ家に起きた不幸が明らかになりました。
セルヴィオラ家が恨まれても仕方ないのかもしれません。
この状況を乗り越えてアンドリュー老人は復讐の連鎖を断てと言っていたのです。
次回、少しだけ息抜きして次の話に行きます。