第15話「種族間交渉官」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
「それはドワーフによって明らかになった話なのですか?」
タリーサはある仮説を胸に秘めながら尋ねた。
「ああ、そうだ。不正会計があったと分かりドワーフ族に第一報を連絡すると、ボリン長老が我が家に飛んできた。ボリンはすごく怒っていた。何故そんなに怒っているのか聞くと、色々な話が出たが、そこでかつての事件の際の抗議文書が無視されたことも言われた。その話は初耳だったのでとても驚いたよ」
「ずいぶん前の話を持ち出すのですね」
「ドワーフ族にとって、数十年前のことはつい昨日のようなものだ。そこの感覚のズレも汲んで調整するのが我々種族間交渉官なのだよ。まぁ確かに抗議文書の話は唐突に出てきた気はする。彼らが相当苛立っていた証拠だろうな」
ボリン長老にはアンナが話を聞いてきている。ここでは妹の存在を伏せることにした。
「私の部下がボリン長老に会って来ました。長老は当時を思い出し、金に目が眩んで抗議をやり過ぎたかもしれないと後悔していたそうです。そんなに苛立っていらっしゃったのでしょうか?」
「ああ、さっきも言った通り、不正会計と抗議文書の話でとても苛ついていた。…いや、違うな。長老が来た時はどういう話なのか教えろという姿勢だった。それが私が一度席を立って戻って来たら怒り出していた…」
タリーサは稲妻を見たような感覚に襲われた。ここだ。
「つかぬことを伺いますが、侯爵夫人はドワーフ語を話せますか?」
侯爵は何かを考えて天井を見上げていた。
「無論、交渉官夫人としての務めがあるからメーガンはドワーフ語を話せる…」
彼は急に黙り込んだ。
「侯爵が席を立っている間に、ご夫人が長老に何か話していたとしたら…」
「適当な事を言うな。セルヴィオラが抗議文書を握りつぶしていたのは事実なのだぞ」
反論するルイスの顔には、不安の色がにじみ出ていた。
「当家の罪を言い逃れるつもりはありません。ご夫人がこのタイミングでドワーフ族を過度に刺激する必要があったのか、という疑問です」
これを聞いたルイスは立ち上がり、顔を真っ赤にして声を荒げた。
「黙れ、無礼者! 憶測の話で妻を責める気か!!」
しかしすぐに我に返り、彼は俯くと小さな声でタリーサに謝罪した。
「も、申し訳ない。つい大声を出してしまった。…すまないがもう帰ってください。私が知っていることは以上だ。貴女がここに来たことは妻には黙っておく。だから貴女もここに来たことは忘れるように。そしてもう二度とここには来ないでください」
「いや、でもまだ話が…」
「頼む…帰ってくれ」
そう言い残すとドウヴェイン侯爵は逃げるように部屋を出て行ってしまった。
慌てて執事が現れ、主人の無礼を詫びつつもタリーサに退出するよう促した。
◇ ◇ ◇
宮廷の門を出たところで忍者アーノルドがそばに立つ。
「侯爵の怒鳴り声が聞こえましたが、大丈夫でしたか?」
タリーサは一瞬答えに詰まったが、深いため息をついて答えた。
「うん、少し焦りすぎたみたい…帰ろう」
メーガン・エルドムイを追及する道は閉ざされてしまった。限りなく彼女は怪しいが、侯爵に「二度と来るな」と言われてしまった以上、正面から調査を進めることは難しい。
しかしまだ調べるべき相手は他にもいる。トーマスが当たっている枢機卿の調査がどうなったか、 タリーサは気になっていた。
(続く)
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★あとがき★
ルイスお爺ちゃんを怒鳴らせてしまいました。妻が何かしたかもしれないと悟ったからです。
しかしまだ真相はわかりません。
次回、行き詰まったターニャは弟トーマスが調べてきた話を聞き、驚愕します。