第15話「種族間交渉官」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
「たしかにセルヴィオラ伯爵にはお孫さんがいたと記憶している。それがタリーサ様、貴女でしたか。よくぞあの状況から生き残られた。さぞかしご苦労があった事だろう」
ルイス・ドウヴェイン侯爵は、肩幅が広く胸板の厚いがっしりとした体格の紳士で、60歳を過ぎてもなお、その迫力は衰えを感じさせなかった。灰色の髪とあごひげが彼の威厳を引き立て、礼服と肩に並ぶいくつもの勲章が名門貴族としての風格を物語っている。
彼はタリーサ(ターニャ)のこれまでの苦労をねぎらいつつも、彼女が今になって自分の前に現れた理由を考えていた。
タリーサは訪問の理由を率直に話した。
「お気遣いありがとうございます。17年前、なぜ聖騎士団長であった父ルーファス・セルヴィオラは死に、その後セルヴィオラ家は断絶に至ったのか。その真相をお伺いしたく、お時間を頂戴しました」
「…やはりその話だな。申し訳ないが、お父様の事件について私は何も知らない。私が語れるのはセルヴィオラ家の不正会計発覚から断絶までの話だ。それでも良いかな?」
ルイスは椅子に腰かけながら、タリーサに問いかけた。
「はい、聞かせてください」
彼が父の暗殺事件に関わりがない、と答えることは最初から予想していた。彼が妻のメーガンと共にセルヴィオラ家を策略にはめたのだとしたら、父ルーファスの暗殺と祖父ダグラス伯爵の殺害は一つの連続した事件だ。どちらから解き明かしても、結論にたどり着くことになる。
「もう17年前になるのか。セルヴィオラ家が管理するリダニウ鉱山の収益報告に長年に渡って不正があるという告発が起きた。鉱山はドワーフ族とセルヴィオラ家で管理していた物なので、この事は種族間交渉官の私にもすぐに連絡が来た」
「はい。そして100年前に鉱山を巡って争いのあったエルドムイ家の長女メーガン様が、侯爵夫人である」
ルイスは一瞬眉を上げたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「それは関係ないがな。何かそこに陰謀があったと勘繰っているのであればそれは間違いですぞ、タリーサ様。聞きたくない話だと思うが、セルヴィオラが不正を長年行っていたのは事実であり、さらに100年前の事件の際、ドワーフからの抗議文書を握りつぶしていた」
今度はタリーサが驚く番だった。
「握りつぶしていた、というのはどういう事ですか?」
「ご存知なかったか。坑路爆発事件が起きた時のことだ。ドワーフ側も良くなかったのだが、彼らは種族間交渉官を通さずにセルヴィオラ家に直接抗議文書を送っていた。セルヴィオラがそれを握りつぶして、放置したことで痺れを切らしたドワーフはエルドムイ家を襲撃してしまった。この事実が明らかになったのが17年前のことだ」
タリーサは不思議に思った。なぜ何十年も前の事が突然同じタイミングで発覚したのだろうか。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
ターニャを本名のタリーサで書き続ける初めての回でした。
侯爵からは実家セルヴィオラ家の新たな悪事を聞くことになります。
この世界の貴族は大なり小なりの悪事を働いているだろうという設定で描いていますが、セルヴィオラ家は色々バレちゃってます。かわいそうなタリーサ。
次回、タリーサはさらに鋭く侯爵に切り込みます。