第14話「エルドムイ」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
小屋の中には重苦しい空気が満ちていた。
窓から差し込む薄暗い光が、古びた家具の上に陰影を作り出し、部屋全体に緊張感を漂わせていた。埃っぽい匂いが鼻をつき、壁には年月の重みが刻まれているようだった。
ターニャはその重い空気を振り払うように口を開いた。
「私たちの父、ルーファス・セルヴィオラは17年前、ベレンニアの王都ルオハンジェで行方不明になり、その後に磔にされた姿で発見されました。その後、セルヴィオラ家は裁判にかけられ断絶とされ、館は襲撃され、家の多くの者が命を落としました。結果として、セルヴィオラ家は滅びました」
ターニャの声には、過去の出来事に対する悲しみと怒りが滲んでいた。彼女の言葉を静かに聞いていたアンドリュー・エルドムイは、深いしわの刻まれた顔に表情を変えずに答える。
「ああ、知っている。痛ましい事件だった。それがエルドムイ家の復讐だとでも?」
アンドリューの言葉は冷静に響く。
ターニャはその問いに動じることなく、真っ直ぐに彼の目を見つめ返す。
「そうかもしれないと思ってここに来ました」
それを聞いてアンドリューは思わず微笑んだ。
「はっきり物を言うご令嬢だな。タリーサ殿、貴女がセルヴィオラ家の後継者なのだな。覚悟を感じるよ」
ターニャは一礼し、続ける。
「無礼をお詫び致します。私は当時10歳で父や家に何が起きたのかも分からず、ただ逃げた記憶しかありません。父に何が起きたのか知りたいのです。何かご存知ないでしょうか?」
アンドリューは少しの間、黙り込んだ。彼の目は遠くを見つめ、過去の記憶を辿っているようだった。しばらく窓の外を眺めた後、彼は静かに呟くように答えた。
「私の両親はセルヴィオラに殺された。私が知っているのはそれだけだ」
「え…」
思わぬ言葉にターニャもアンナも言葉を失った。部屋の空気が一瞬凍りついたようだった。
アンドリューは話を続ける。
「遥か昔のことだ、気にするな。貴女が私の両親の死を知らないように、私も貴女の父親の死については何も知らない。もう何十年もここを離れていないからな。いや、待て…」
アンドリューは一瞬言葉を切り、考え込むように視線を落とした。
小屋の中に静寂が広がり、外からはサルか何かの鳴き声がかすかに聞こえてくる。
そして、彼は顔を上げると、ターニャに真剣な眼差しを向けて言った。その目は、長年の孤独と苦悩を映し出していた。
「タリーサ殿、復讐を重ねることには何の意味もない、分かるかね?」
「分かります。私は父がなぜ死んだのか知りたいだけです。復讐したい気持ちはありません」
アンドリューはターニャの目をじっと見つめ、その言葉を吟味するように聞いていた。部屋の空気が重くなり、時間が止まったかのようだった。そして、ふと視線を柔らかくし、問いを投げかけた。
「本心かね? 目の前に貴女の父親を殺した張本人が現れてもその言葉は変わらないと誓えるか?」
ターニャは黙った。彼女の心には、過去の怒りや悲しみが交錯していた。
(続く)
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★あとがき★
ターニャとアンドリュー老人の対話が始まりました。
今回と次回が第2部の山場です。私がこの物語で描きたかったテーマはここに集約されていると言っても過言ではありません。
次回、アンドリューから予想外の話がされ、ターニャは大きく動揺します。