表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/259

第14話「エルドムイ」 - 2

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

今回の旅の随行者は、再びアーノルドとジャック。エミリーは引き続きフェリックスを監視している。


馬車は広大な草原を走っていた。

風は穏やかに吹き、どこまでも広がる緑の大地が目に映る。空は雲ひとつない青空が広がり、太陽が燦々と降り注いでいた。遠くには山々が霞み、野生の花が点々と咲いている。道の脇には古びた石垣が続き、所々に枯れかけた木々が風に揺れている。


「お姉様、道中の魔物は私が蹴散らしますから、お姉様は荷台でゆっくりお休みくださいね。さ、アーノルドさん、よろしく!」


すっかり自信満々で頭領気取りの妹に、ターニャは少々心配になった。しかし、前回同行したアーノルドたちからもアンナの成長ぶりを聞かされており、彼女に任せてみることにした。


その時、物見をしていたジャックが知らせを入れてきた。


「右手からイノシシの魔物が数匹、こちらに向かってきています!」


アンナは目を輝かせ、喜々として御者台に飛び乗った。


「ちょうどいいですわ! お姉様見ててください!!」


視線の先には、森から姿を現した巨大なイノシシたち。黒い毛が逆立ち、鋭い牙が光る。彼らが踏みしめる地面には深い轍が残り、荒々しい足音が響いている。


おもむろに両手を広げると、彼女は詠唱を始めた。

「風の精霊セレスティアに命ずる。真空の刃をもって我に仇する災いを撃て!!」

以前よりも短くなった詠唱。風の精霊との結びつきが強まっており、長い儀式を必要としなくなった証拠だ。


彼女の詠唱が響くと、周囲の風が一気に集まり、木々の葉がざわめき、草原の風景が大きく変わった。アンナの両手から無数の小さな竜巻が飛び出し、空中で結合して大きな竜巻を形成する。その竜巻は恐るべき速度でイノシシの魔物たちに向かい、風の刃が彼らを容赦なく切り裂いた。


「ピギィィィ!!!」


見えない刃に切り裂かれたイノシシたちは、断末魔の叫びを上げながら、次々と黒い砂に変わり、風とともに消え去った。空気中に漂うかすかな砂粒だけが、彼らが存在していた証拠を残していた。


「ざっとこんなもんですわ」


満足げな笑みを浮かべ、姉のほうを振り向くアンナ。青空を背景に、彼女の姿が一層たくましく映った。


「いつの間にこんな強力な魔法を操るように…」


ターニャは驚きと共に、妹の成長に舌を巻いた。


◇ ◇ ◇


「ドワーフの長老に教えてもらった場所はあのジャングルですね。川を辿って上っていけば見つけられるそうです」


アンナが指さした先には、密集した木々が生い茂るうっそうとしたジャングルが広がっていた。

大きな木々の間からほのかに光が差し込み、湿気を帯びた空気が周囲に漂っている。ジャングルの中央からは、細い川がくねくねと蛇行しながら流れていた。その川は深い森の奥へと続いている。


アーノルドがジャングルの手前で馬車を止め、周囲を見回しながら低くつぶやいた。

「けもの道も何もないですね。このジャングルは馬車じゃ無理です」


見渡す限り、木々は高く天を覆い、下生えの茂みが一面を覆っていた。道らしい道はなく、自然がそのままの形で人々を拒んでいるように見えた。


挿絵(By みてみん)


「了解。きっと込み入った話になるだろうから、アーノルドさんはここで待っていてください。ジャックさんも」


ターニャは指示を出し、アーノルドとジャックは近くにあった使われていない小屋に馬を繋ぎ、姉妹の戻りをそこで待つことにした。古びた小屋の周りには、枯れかけた草が茂っており、まるで長い間誰も近づかなかった場所のようだった。


「大丈夫、大丈夫! 私がお姉様のことを守るから安心して!」


アンナは笑顔で胸を張り、自信満々に語った。その姿にターニャは少し苦笑したが、頼もしくなった妹の存在が嬉しかった。


◇ ◇ ◇


エルドムイの長男はジャングルの奥深くに流れる川の上の家に住んでいた。

家の前には老いて痩せたライオンの魔物が丸くなって眠っている。遠くからでもその魔物の異様な迫力が伝わってくる。


「お姉様、多分ここです。でも、どうしますか、あの魔物・・・」


つい先ほどまで自信に満ち溢れていたアンナが、急に小さな声で尋ねた。彼女の目は魔物に釘付けになり、その気迫に気圧されているようだった。

ターニャもその魔物に目を向け、胸の奥で緊張感が走った。


「いつでも風の壁を作れるように準備しておいて。今のところ、あの魔物がこちらを警戒している様子はない。襲いかかってくることは…おそらくない、とは思う。でも、あの魔物は…何かが違う。怖い」


ターニャは自分の声が少し震えていることに気づいた。

これまで自分の身長の倍以上ある鬼などとも臆せず戦ってきたターニャが、この老いたライオンの魔物には何か尋常ではない力を感じた。まるで長い年月を生き抜いた者だけが持つ、深い威厳と静かな恐怖がそこに漂っているかのようだった。


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

今回、旅の道中のエピソードは短くしました。

この後が濃厚かつ物語の非常に重要な部分なので、早くそこに行きたくて・・・

後で読み返すと文量のバランスが悪いだろうなと思いつつ、それでも先を急ぎます。


次回、遂にエルドムイ家の長男との対面。そこではどんな話が聞けるのか、乞うご期待。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ