第13話「ハンスの回顧」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
運ばれてきたルーファス団長とリリー副団長の遺体を見た瞬間、聖騎士団の団員たちは全員、喉がちぎれるほど泣き叫んだ。遺体には無数の剣傷があり、着ていた革鎧はボロボロに裂けていた。あれほどの実力者たちがここまでやられるとは、誰も信じられなかった。
その時のことを思い出し、ハンスは既に空いたウォッカのボトルを手にしたまま沈黙していた。
店の主人が新たなボトルを開けて、ハンスのそばにそっと置いた。
フェリックスはそのボトルを受け取り、ハンスのグラスに注ぎながら尋ねた。
「それから・・・どうなったのですか?」
ハンスは目を細め、ゆっくりと話し始めた。
「皆が絶望の中にいるところに枢機卿たちがやってきたんだ。確か、スカーレット様とアビゲイル様だったかな。他にも何人かいたかもしれない。彼らが『立て! どんな時も聖騎士団はその使命を果たさねばならない!!』と叱咤してな。皆、我に返ってそれぞれの持ち場に散っていった。あの時の言葉はありがたかったよ。何もできなくなっていた俺たちに、再び力を与えてくれた」
「犯人の手がかりは見つからなかったんですか?」
ターニャが尋ねた。
ハンスは首を横に振った。
「全く見つからなかった。遺体が磔にされたあの十字架を運び込んだ形跡も、犯行に及んだ者たちの痕跡も、何もかもがわからずじまいだった。あれは一人ではできない。集団での犯行の可能性が高いと思われたが、何の情報も出てこなかった」
ターニャはさらに前のめりになり、問いかけた。
「どうしてルーファス団長とリリー副団長が狙われたんでしょうか。何か兆候があったのですか?」
ハンスはターニャに一瞬目を向け、少し考えてから答えた。
「今でも理由はわからない。ただ、お2人は国中の象徴的存在だった。2人を失うことはベレンニア王国にとっても大きな損失だったんだ」
そうこうしている内に次の団長・副団長を決めることになったという。
「第13代団長にはルーファス団長の右腕だったラルフさんが選ばれた。故人の意志を継ぐ人としても実力から見ても妥当だったと思うよ。その一方で副団長の選出が厄介だった」
ハンスはウォッカをまた飲み干し、次をフェリックスに求める。
「選ばれたのは若手のグレースだった。彼女は若手の中では実力があり、リーダーシップも人望もあったが、俺と同じほぼ新人だ。異例の抜擢だった」
グレースが選ばれたのはどうやら実家オーリンダール家が裏で動いたかららしい。
オーリンダール家は武家の名家として有名で何人も聖騎士団幹部を輩出している。しかし第12代は団長も副団長もオーリンダール家はおろか常連の武家から選ばれなかった。
有力伯爵とはいえ入り婿のルーファス、聖職者輩出の名家であるはずのクロワ家からリリーと第12代は異例のコンビだった。続く第13代はラルフは確定、もう1人の候補も元々は武家出身ではなかった。
「この流れが続くことを恐れた武家連中が結託してねじ込んだというのがもっぱらの噂だ。本当のことは分からん。でも合ってるんじゃないかな」
ハンスは目を閉じながら話すようになってきた。だいぶ酔いが回ってきているようだ。
グレース・オーリンダールの副団長就任は決して力不足ではなかった。
それでもグレースによって副団長の座を逃した者やその仲間は反発していたはずだ、そう言うとハンスは黙った。しばらく間が空く。寝てしまったか?
フェリックスはようやく飲み方が分かってきたウォッカを口に含むと、ターニャに話しかけた。
「ルーファス団長のことはあまり分からないままですね・・・」
するとカウンターの奥にいた主人が初めて口を開いた。
「私が話しましょうか。私もあの場にいた人間だ。ハンスさんと同じものを見ている」
主人は口ひげを蓄えた細身の男性で、その顔には長い年月の影が色濃く刻まれていた。白い肌に薄手のシャツをまとい、ロウソクの灯りで浮かび上がるその姿は、骸骨のように不気味に見えた。
「ぜひ、お願いします」
ターニャは主人に頭を下げた。フェリックスもそれに続く。
主人は取り出した葉巻に火をつけ、煙を深く吸い込んでから、ゆっくりと目を閉じた。
「ルーファス団長の事件のことを掘り下げるには、ラルフ団長の話にも触れなくてはなりません」
主人の言葉に酒場の空気が再び引き締まった。彼の視線は、過去の記憶を辿るように遠くを見つめていた。
(続く)
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★あとがき★
ルーファス団長とリリー副団長が何故殺されたのかは未だ理由が分かりません。
その一方で、現在のグレース団長就任の妙な部分については収穫がありました。
ハンスは寝ちゃっても隠れ家酒場での話はまだまだ続きます。
次回、店の主人が代わってラルフ団長時代の悲劇について話します。