第13話「ハンスの回顧」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ハンスが仕事を終えるのを待って、3人は彼が常連として通う酒場に向かった。
酒場に向かう道は細く暗い路地で、通りの片側には古びた石畳が続き、反対側には背の高いレンガの壁がそびえている。フェリックスは周囲を警戒しながら歩き、ターニャは一歩後ろを歩いている。
その道すがら、ハンスは突然、フェリックスに向かって冗談めかした声をかけた。
「こんな込み入った話に連れてくるってことは、この子、新人騎士じゃないだろ。顔も隠してるし、もしかしてマルトゥリック家の将来の嫁かなんかだろ?」
フェリックスとターニャは思わず顔を見合わせ、一瞬驚きで動きが止まる。しかし、すぐに冷静を装い、「そんなことはない」と否定する。だが、ハンスの目は笑っておらず、冗談だとは思えない重さがあった。
「ここだ」
ハンスが指し示したのは、館の裏口のような小さな木製の扉だった。フェリックスは、これが本当に酒場なのかと疑問に思いながらも、ハンスの後に続いた。
扉を開けると、狭くて薄暗い通路が続き、その先には人ひとり通るのがやっとのサイズの狭いカウンターが見えた。中は薄暗く、かろうじてランプの明かりがかすかに揺れている。カウンターの向こう側には人影が見えるが、顔までははっきりと見えない。
「この店は見ての通り5席あるのみ。ここの主人も元聖騎士の後輩だ。口は堅いから安心しろ」
ハンスの言葉に続き、フェリックスはゆっくりと周囲を見渡した。カウンターに並ぶ椅子は古びていて、3人が座ると木の軋む音が静かな店内に響く。
ハンスは主人に向かって軽く頷き、「いつものやつを頼む」と言った。
主人が古びたガラスボトルを取り出してハンスに差し出す。ハンスはそのボトルを受け取り、少しだけ笑みを浮かべると中身をコップに注いだ。透明な液体がグラスに注がれた瞬間、独特の香りが漂った。
「ウォッカという酒だ。キープしてあるやつでな」
ハンスは一口で喉に流し込んだ。「お前たちもどうだ?」
フェリックスとターニャは顔を見合わせた。ターニャは以前、ウォッカを口にしたことがあり、その強さをよく覚えていた。彼女は慎重にグラスを手に取り、少しだけ口に含むように飲んだ。
一方、フェリックスは何も知らずにぐいっと飲み干し、その瞬間、激しく咳き込んだ。
「大丈夫?」
ターニャはすぐにフェリックスに水を渡し、背中を軽く叩いて介抱した。フェリックスは顔を真っ赤にして咳き込みながら水を飲んだ。
その様子を見て、ハンスは口元に笑みを浮かべた。
「やっぱり嫁さんなんだろ?」
そう言いながら、さらに確信を深めたように頷く。
ターニャは再度否定したが、ハンスは聞いていない様子だった。
ハンスはウォッカをもう一口飲み、昔の話をし始めた。彼の声にはどこか懐かしさが漂っていた。
「俺と今の団長グレースは同期入団だった。入団当初は俺の方が剣の腕は上だったが、グレースはどんどん実力を伸ばして半年後には同期どころか若手の中では最も優れた騎士になっていた。そんなグレースも俺もみんなが団長・副団長の強さには憧れたもんだ。2人の強さは衝撃的だった。『剣聖』という称号があるならば2人にこそ与えるべきものだろう。彼らは毎日のように手合わせをして、互いに腕を磨き合っていたんだ」
彼の話が続く中、フェリックスとターニャは静かに耳を傾けた。ハンスの表情には、過去の記憶に浸るような遠い目が見え隠れしていた。
「でも、ある日、突然団長と副団長が行方不明になった。あの日のことは誰もが覚えている。まるで悪夢のようだった……」
ハンスは言葉に詰まり、俯いた。
彼は顔を上げると無理に笑顔を作り、
「なんか聖騎士団の歴史じゃなくてゴシップ話みたいになってきたな」
と苦笑しながら言った。
この先の話を話したくないように見えたが、フェリックスは微笑んで返した。
「まぁ、飲みながらなんだし、いいじゃないですか」
ターニャが聞きたかった話はここからだ。
「2人が行方不明になったと気づいたのは翌朝だった。聖騎士団全員で探したけど見つからず、特に2人を慕っていたラルフさんは寝ずに夜になってもずっと探していたよ。次の日に憲兵から磔にされた騎士2人の遺体が発見されたと報告が入った。違ってくれと願ったがその2人はルーファス団長とリリー副団長だったんだ・・・」
そこまで話すとハンスは再び俯き、ウォッカのグラスを飲み干した。
店には沈黙が流れる。
(続く)
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★あとがき★
ハンスが2人を連れて行ったのは隠れ家的な酒場でした。
そこでハンスが聖騎士団に入った頃の話、そしてターニャの父ルーファスが遺体で発見されたところまでの話が聞けました。ターニャにとってはとても苦しい時間ですが、これが知りたかった事の入口です。
★この世界・物語の設定★
ウォッカは割りとあちこちで飲めるようだ。
次回、遺体が発見されてからの話が引き続きハンスの口から語られます。