第11話「ドワーフ長老の記憶」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
100余年前の坑道爆発事故から起きた悲劇は、時を経て再び新たな悲劇を生む。
「鉱山を巡るトラブルはこれだけではない。次は今から20年くらい前。人間側の鉱山管理者であるセルヴィオラ家が鉱山の収益を長年に渡って誤魔化し、ベレンニア王国への納金を行っていなかった、不正報告を行なっていた、という話が突如浮上した」
ティレタル家で初めて聞いた不正会計の話だ。
次は自分の父親が登場する。アンナは無意識に手を強く握りしめ、その手の平には汗が滲んでいた。鍾乳洞の冷たく湿った空気が、ボリンの話を聞く者たちの緊張感をさらに高めているようだった。
「この不正報告は人間側だけの話でなく、我々ドワーフ族に対しても誤魔化しが行われていたという話だった。この話を知った我々は真相究明を強く要求した。この時は我々の要求が通り、また他にも問題が発覚し、セルヴィオラ家は有罪となって非常に重たい処分を受けた。それは爵位剥奪、つまり断絶というものだった」
その顛末を知ってはいたものの、「爵位剥奪」「断絶」という言葉は、アンナの心に鋭く突き刺さった。
姉ターニャがこの場にいたらどんな顔をしていただろう。
「当時は当然の処置だと思っていたが、今にして思えばドワーフ族が強く抗議したことで処分が重たくなったのかもしれない。当時我々は事業に失敗して金を必要としていた。それが強い要求に繋がったのだろう。セルヴィオラ家には恩義があっただけに複雑な気分だ。その後、あの凄惨な襲撃事件が起きてセルヴィオラ家は滅んだ」
「襲撃事件ってなに?」
事情を知らないロヴァリンが無邪気に尋ねる。
ボリンは仕方なく襲撃事件についても説明した。
それはアンナが姉ターニャから聞いていた話と同じだった。
今となっては何故急いで荷物をまとめていたのかもおおよそ分かる。
セルヴィオラ家は伯爵の立場から突然ただの平民となり、王都の館はおろか自分たちの領地の館も引き払わなくてはならなくなった。すぐに退去しなければ財産を差し止められる恐れがあったのかもしれない。
それで焦って荷物をまとめているところに、謎の集団から襲撃を受ける。不意を突かれたセルヴィオラは必死に抵抗するも次々と殺され、館には火がかけられた。
直前に王都で、次期当主で聖騎士団団長のルーファスが暗殺され、ただでさえ混乱していたところに追い討ちを掛ける形で起きたこの襲撃事件によって、セルヴィオラ家は致命傷を負った。
このピンチに隣家のティレタルから派遣された忍者たちが到着する。この場にいるアーノルドとジャック、そして王都で姉ターニャを護衛するエミリーの3人だ。彼らは当時10歳のターニャと母アイシャ、侍女のグロリアをかろうじて救出して館を脱出する。
生き延びた彼らは国境を越えて隣国アルヴァリアス帝国の町フェイルノスに辿り着き、そこで身元を隠して生活することとなった。
襲撃された時、アイシャは双子を身ごもっていた。それがトーマスとアンナ。双子の兄トーマスは現在カルメサス伯爵家の宮廷道化師となって王都でこの一連の事件の情報を調べている。
襲撃から17年。アンナはここリダニウ鉱山の鍾乳洞で、襲撃事件に至るまでの長い経緯を遂に突き止めた。
(続く)
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★あとがき★
続いて語られたのは三姉弟もその場にいた(双子はお腹の中だけど)事件の話でした。
ボリンは20年くらい前と話していましたが、アンナの年齢と同じ17年前の出来事です。
次回、アンナはマルトゥリック家、エルドムイ家についてボリンに尋ねます。マルトゥリック家覚えてます?w