第11話「ドワーフ長老の記憶」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
アンナは心を落ち着かせて挨拶をした。
「ボリン長老、はじめまして。仰る通り、私の名前はアンナ・セルヴィオラ。セルヴィオラ家の者です」
その言葉にギルバートが驚いて声を上げる。
「なんだと! セルヴィオラ家といったら・・・ふぐ!」
ギルバートの口から出かかった言葉は、アーノルドとジャックに素早く口を塞がれてかき消された。
「ギルバート様。事情は追ってアンナ様からお話しますのでこの場はお静かにお願いいたします」
二人の手際の良い対応により、ギルバートは後ろ手に縛られ、そのまま座らされてしまう。さらには口にも猿ぐつわをされて完全に制圧された。
ようやく場が静まり、それぞれが適当な場所に腰を下ろし、ボリンの話に耳を傾ける準備を整えた。
アンナは少し緊張しながらも、ボリンに注意を払う。彼女の隣では、ギルバートがもぞもぞと猿ぐつわを外そうとしているのが見えるが、アーノルドとジャックがそれを制している。
ロヴァリンは興味深そうに前のめりになって祖父の言葉を待っている。
ボリンは手元の彫刻をしまい、ゆっくりとロウソクの灯りに目を向けると、低く深い声で語り始めた。
「今から100年、いやそれ以上前の話か。このリダニウ山でとても質の良い魔鉱石が採れることが分かり、我々ドワーフと人間は協力してここを鉱山にしていった。鉱山が2つの人間の貴族領に跨っていた為にセルヴィオラ伯爵家とエルドムイ伯爵家の両方がこの鉱山の権利を主張し、調整がつかないまま採掘が始まった。これが始まりだ」
ボリンは鍾乳石の欠片を登場人物に見立てて三角形になるように置く。
ドワーフとセルヴィオラ、そしてエルドムイ・・・エルドムイはこの場にいる全員が初めて聞く名前だった。
「そんな状態で何年かやっていたある日、坑道で爆発事故が起きた。それによってドワーフと人間が何人も死んだ。セルヴィオラはエルドムイの仕掛けた謀略だと主張した。人間の死者にはエルドムイの人間が1人もいなかったからだ。この疑いに対してエルドムイは言いがかりだと強く否定した。我々ドワーフは人間側に事態の説明を再三求めたが、回答が得られないまま時間が過ぎていった」
悲しい記憶を思い出してボリンは次の言葉をためらいつつ、話し続けた。
「家族が死に、気が立っていた我々はエルドムイの仕業だと聞いて彼らを襲撃してしまった。エルドムイはこれに対抗して我々ドワーフ、そして勢い余ってセルヴィオラにも報復し、三方に多くの死傷者が出た」
悲惨な展開に全員が息を飲む。眉をひそめながらボリンは続きを語った。
「いよいよドワーフと人間の全面戦争になってしまうかという状況の時に、ベレンニア王家が事態の収拾に動いてようやく収まった。調停の結果、エルドムイは伯爵から最下位である男爵に格下げ、エルドムイ当主は強制的に引退となり、領地も移転となった。セルヴィオラは厳重注意、そして謹慎処分の後に鉱山の人間側管理者になった。人間同士の話なので我々は口を出すつもりはないが、エルドムイ家には厳しい処分となったと思う」
ボリンの語る声に込められた悲しみと怒りが鍾乳洞に反響して増幅されているかのようだった。
しかし彼の悲しい記憶はこれで終わりではなかった。
(続く)
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★あとがき★
ボリン長老によって遂にこの物語の出発点が語られました。実際にはもっと前の話もあるのですが現時点ではここが全ての始まりです。ここから読み始めてもいいんじゃないかなってくらいここがスタートです。スタートに辿り着くまでに4ヶ月くらい掛かった・・・
★この世界・物語の設定★
貴族の爵位は上から「公侯伯子男」
エルドムイ家は伯爵から2つ下で一番下の男爵に落とされた。
次回、時を経て再び起きた鉱山の悲劇をボリンが引き続き語ります。