第11話「ドワーフ長老の記憶」 - 1
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ジャイルズ商会の面々は、先を急ぐとのことでここで別れることになった。
「短い間だったけど刺激的な旅で楽しかったよ、アンナ。またどこかで会おう」
ジャイルズが穏やかに微笑みながらそう言うと、アンナはにっこりと笑って答えた。
「ジャイルズさん、皆さんも。どうかお気をつけて!」
遠ざかるジャイルズたちの馬車に手を振るアンナの隣には同じく手を振るギルバートがいた。
「私はアンナ殿を守らねばならないからまだまだお供するぞ」
だいぶ面倒くさいがギルバートは実力は確かで頼りになる存在だ。
アンナはぎこちない笑顔で感謝を伝えた。
うずうずしていたロヴァリンがようやくという表情で出発を宣言する。
「さあ、ドワーフ族の長老ボリンに会いに行こう!」
◇ ◇ ◇
宿舎村から馬車に揺られてしばらく進み、両脇を鬱蒼とした木々が取り囲む道を抜けると荒れた道の先にリダニウ鉱山が見えてきた。
鉱山の周囲には黒く焦げたような岩肌が広がり、そこから細い煙が立ち上っている。
馬車を降りると、アンナたちは鉱山の麓にある鍾乳洞の入口を目指して歩き出した。
「お爺ちゃんはこの奥の鍾乳洞にいると思うよー」
ロヴァリンが先頭に立ってみんなを導く。
鉱山の麓に広がる平地には、いくつかの小さな小屋が点在していた。
そこには鉱夫たちの仮設の作業場や、休憩用のテントが立てられている。彼らは、薄暗い明かりの中で無言で仕事を続けている。その先に目を向けると、黒々とした鍾乳洞の入口がぽっかりと口を開けているのが見えた。
鍾乳洞の入口は、大きな岩の間にひっそりと隠れるようにして存在している。
周囲には背の高い草が生い茂り、少しでも油断をすれば見逃してしまいそうなほどだ。
ロヴァリンに続いてアンナ、アーノルド、ジャック、そしてギルバートが鍾乳洞に入っていく。
鍾乳洞の中は冷たく湿った空気が漂っていた。天井からは無数の鍾乳石が下がり、足元には滑りやすい石灰岩が広がっている。
「ここはまさか『魔の鍾乳洞』なんて名前がついてたりしないよな?」
ギルバートが軽い冗談を口にすると、一行の中に微かな笑いが広がった。しかし、その言葉がかえってこの場所の不気味さを強調するようで、思わず辺りを見回してしまう。
「お爺様はこの中で何をしているの?」
アンナの問いかけに、ロヴァリンは肩をすくめながら答えた。
「さあねー。お爺ちゃんの考えることは分からないんだよねー」
アンナは不安を払拭したくて尋ねたのだが、ロヴァリンの軽い調子に少し安心しつつも、まだ胸の奥にわだかまるものを感じていた。
一行が進むにつれて、鍾乳洞の空気はさらに冷たく、湿度もますます増していく。周囲の静寂が耳を圧迫する中、どこからともなく水滴の音が響き渡り、そのたびに洞窟全体がかすかな共鳴を返すようだった。突然、曲がり角の先から深くしわがれた声が聞こえてきた。
「ロヴァリンか。今日は大勢で来たようじゃな」
曲がり角を曲がるとそこは小さな広場のような空間で、自然にできたテーブルの上に数本のロウソクが灯されている。その淡い光に照らされる中、ドワーフの老人が鍾乳石で彫刻を作っていた。
その老人は、擦り切れて地面に引きずっている真紅のローブをまとい、床まで届きそうな長い白髪のアゴヒゲを蓄えている。この人がドワーフ族の長老ボリンだ。
「お爺ちゃん! 今日はね、リダニウ鉱山の昔話を聞きたいっていうアンナを連れてきたよー」
ロヴァリンの声に、ボリンは手を止めることなく答えた。
「鉱山の昔話か。そんなものに興味がある人間とは珍しいな」
ボリンは彫刻を削る手を止めずに、アンナに視線を向け、その瞳をじっと見据えた。しばしの沈黙の後、彼は何かを見つけたように口を開いた。
「そうか、貴女はセルヴィオラの子か。辛い運命の生まれだな。良かろう、あなたに昔話をしてさしあげよう」
アンナは驚きで目を見開いた。まだ自己紹介もしていないのに、このドワーフの長老には一体何が見えているのだろう。
(続く)
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★あとがき★
洞窟の中にいる老人に会いに行く。いかにもファンタジーRPGのような展開になりました。
ドワーフ族の長老ボリンは、長く生きたことで何か人智を超えた洞察力を身に着けているようです。
次回、ボリンは100年以上前に遡ってこの鉱山を取り巻く悲劇をゆっくりと語ります。