第5話「ギルドの緊急事態」 - 1
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
一座は次の町ヴァーレルソルイに到着した。
馬車を宿屋に預け、町を歩いてみることになった。ミハイルとペトルは宿屋に残って楽器の調整や馬の世話をしている。
ヴァーレルソルイは港町エルミナルよりも小さいけども織物や編み物、刺繍などが盛んで手芸の町として知られているそうだ。
「ヴァーレスンっていう独特の刺繍が有名でな。ラミナが大好きでここに寄るといつも買わされる」
ステファン座長が苦笑しながら話すと
「あーら、そう言うけど頼んでもないのに買ってくれるのはあんたの方でしょ! アタシにぞっこんなんだから困ったもんよね」
ラミナがからかう。
「そんな事ないぞ」
「そんな事ないの?」
「そんな事…ある」
ステファンとラミナの夫婦はとても仲が良い。
30代後半になってもジャレあえるこの夫婦には皆が感心する。
娘のダニエラは両親のジャレ合いには興味がないようで、踊るようにステップを踏みながら露店に並ぶ珍しい手芸品を見て回っていた。
その傍らで、さっきからトーマスは座長に教えてもらった刺繍を見定めている。
デザインの素晴らしさはよく分からないが、多くの人が手に取っているし、値段もなかなか張るものなので、遠くの町に持っていったら高く売れそうだ。
「あんた、あの刺繍で儲けるつもりでしょう?」
トーマスの心の中を読んだかのようにアンナが鋭く指摘してきた。
「うん、この刺繍は確かに独特で綺麗だから儲かる気がするよ」
「ふーん、まぁ商売は貴方に任せるわ。儲かったら私に新しい靴買ってよね。穴あきそうなのよ」
「穴あいてから相談しな!」
「なーにー!! 穴あいてからじゃ遅いでしょ!」
ここでもアンナとトーマスの言い合いが始まり、それを見つけたダニエラはケタケタ笑っている。
「この町の秋のお祭りに出れるんですよね、楽しみだな~」
「おう、その祭りで俺は剣技も織り交ぜた芸を披露するぞ。ということでターニャ教えてくれ!」
「お、ピーターさん、じゃあ明日の朝からやりますか」
「頼むぜ、師匠!」
なお、ピーターは1日目で音を上げて逃げ出すことになる。
「祭りの話をいただいたんだ。こういうのはちゃんとしておこう」
座長夫婦は領主様に挨拶に行くと言って別れた。
ターニャたちはもう少し町を見て回ることにした。
しばらく行くと何やら人だかりができている。
近づいてみるとそこは冒険者ギルドだった。
なんでも一昨日に町はずれの洞窟探索に向かった何組ものパーティが戻ってきていないらしい。
ターニャは「冒険者も大変だね。さ、行こう」と、とっととそこを離れようとした。
「あ!あ!剣士ターニャ!!」
集団の1人が彼女を見つけて指差した。
「本当だ、剣士ターニャだ」
「あれがターニャか…」
大きな帽子にフェイスベール姿でターニャは顔を隠してるつもりでも、周りからしたらトレードマークみたいなもの。すぐにその存在がバレてしまった。
(続く)
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★あとがき★
元々ヴァーレルソルイの町では旅芸人の休日を描いていたのですが、20話くらいまで書いた後に読み返してみたら全く必要のない話だったので、大きく変えて洞窟を登場させました。変えたらもの凄い冒険物語になっちゃったという…
独特の刺繍ヴァーレスンは2年後に再登場します(笑)。
そしてターニャの風貌。理由あってこの格好なんですがこの世界でも珍しい格好という事にしてるので目立つんですよね。後で気づきました(笑)