第9話「失われた家族」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
感傷的な反応がロジャー侯爵からは得られない。そうした反応が少しでも見えればそこから切り崩していけると踏んでいたのに。
「それは大変失礼いたしました。人づてに聞くのはダメですね。やはり関係者に直接話を伺わないと真実は分からないと改めて思いました。次の質問です。リリー様が亡くなられた事件の後にもう一つ事件が起きました。もう一人の姉君、アビゲイル枢機卿がラルフ聖騎士団長に襲われた事件です。この襲撃は他の聖騎士団員に阻止されて未遂に終わりましたが、危うくアビゲイル様も殺されてしまうかもしれませんでした。この事件について何かご存知ですか?」
ロジャーはこの質問にも表情を変えず、よく撫でつけられた髭を触りながら淡々と答えた。
「貴殿が調べられた事と同じように私も記憶しています。姉は今も枢機卿の責務を全うしております」
アビゲイル様が健在なのは知ってるよ! そうじゃなくて殺されかけた姉に対する心配とか当時の話とか無いのかよ!!
心の声が思わず口を突いて出てきてしまいそうになった。落ち着け、トーマス。
「アビゲイル様が襲われた理由が気になっています。あの方の性格や周囲の評判・世間の噂などから何か思い当たりませんか?」
評判や噂などには興味ないだろうと分かっていたが、あえて変な質問にしてみた。
しかしロジャーには全く通用しなかった。
「姉アビゲイルはベレンニア王国と教会の為に身を賭しています。その使命を果たす過程において時には危険な目に遭うこともあるでしょう。姉もその覚悟はできています」
暖簾に腕押し。そんなことわざを思い出した。
彼にとっては全ては必然、そこに嬉しいも悲しいも怒りも不安もない。
落胆が顔に出たのだろうか。初めてロジャー侯爵のほうから話しかけてきた。
「聞きたかった話を手にすることができませんでしたか。私から一つ申し上げるならトーマス殿、あなたはクロワ家を全く分かっていない。あなた方のように数年、数十年といった視野で生きている訳ではないのです。ましてや姉個人の人生がどうあって欲しいか等という矮小な思考など当家の人間は誰も持ち合わせていません。当家が代々聖職者を輩出しているのはそれが伝統だからではないのです」
「そ、それではクロワ家は一体どんな使命を背負っているのですか?」
なんとか聞けた質問はこれだった。
「それを知りたいと思ったのであれば是非とも国教会の聖書をお読みください。聖書が示す世界の実現の為にクロワ家はあります」
圧倒されて何も言葉を返すことができなかった。ロジャー侯爵は無表情のまま立ち上がる。
「玄関までお送りします。またいつでもお越しください」
そう言うと自ら部屋のドアを開けて俺を外へ促した。出ていくしかない。ロジャー・クロワからは一切情報を引き出すことはできなかった。
分かった事といえばクロワ家は普通の貴族とは全く違う異質な存在だということ。
俺は悔しさと無力感に押し潰されたまま、クロワ侯爵邸をあとにした。
俺が門を出て視界から消え、玄関を閉じながらロジャー・クロワはこう呟いていた。
「トーマス、あなたは姉上の崇高な志を一生理解することはできないですよ」
(第9話 完)
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★あとがき★
2話に渡るロジャー・クロワとの会談でしたが、17年前の事件に関する事は分かりませんでした。最後のロジャーの台詞「姉」とは誰を指してるんでしょう?作者も決めてるような決めてないような部分ですw
家族との別れは2つの家で大きく違うものでした。
次話、主人公は妹アンナに移り、事件の元凶とも言えるリダニウ鉱山に踏み込んでいきます。