第9話「失われた家族」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ロジャー・クロワ侯爵はとても無表情な男性だった。
突然訪問してきた宮廷道化師を快く招き入れてくれたが、何を聞いてもどんな話にも淡々と答えるのみで、あの残酷な事件でクロワ家が受けた痛みを窺い知ることができなかった。
「姉リリーが亡くなってもう17年ですか。彼女に祈りを捧げることは既にただの日課になっていました。姉の事件は隠す話でもありません、トーマス殿が知りたいことをお答えしましょう」
クロワ家の邸宅は侯爵という高位な貴族にも関わらず、普通の質素な館だった。
代々高位聖職者を輩出する名家であれば廊下に歴代の肖像画が並びそうなものだが、そうしたものは一切なく、通された応接室も無機質で必要最低限の家具しか置かれておらず寒々しい。
応接室の広い窓から見える庭もミニマリズムを突き詰めた玉砂利の庭園でオシャレといえばオシャレだがただひたすらに無機質な印象を受ける。
「裁判所の記録によれば、痛ましいことにリリー様の遺体は散々斬りつけられた深い傷痕が多数あり、そしてルーファス団長とともに十字架に磔にされた状態で発見されたとあります。ロジャー様はリリー様のそのご遺体をご覧になりましたか?」
「ええ。棺に納められた状態で姉アビゲイルが家に連れて帰ってきました。激しい戦闘なのか拷問なのかによって多数の傷を負ったのが死因だろうと思いました」
ロジャー侯爵は顔色ひとつ変えずに家族の死について語る。不思議に思ったが、まずは用意してきた質問を全てぶつけることにした。
「姉君の突然の訃報にさぞかしショックを受けられたと思います。この惨たらしい事件の犯人は捕まることがなく、続けて起きたセルヴィオラ家襲撃事件と同一犯とされました。その容疑者たちは全員死亡しており、真実は分からないままです。この結末にクロワ家は不服を訴えて何度も再捜査を要請したと聞きました。それは…」
しかし、ここで予想していなかった答えが返ってきた。
「お待ちください。その話は事実とは異なります。当家はそのような要請はしていません」
「え? そうなのですか?」
「どこでそのように聞いたか存じませんが、我々は法の下に生きる者。王国の捜査結果に物言いをつける事はありません。それに姉リリーは神に全てを捧げた身。彼女があの時に死ぬのは神がそう決めたからです。それに抗う必要はありません」
侯爵は壁に書いてある文章を読み上げるかのように何の感情も込めずにそう答えた。司祭服に似ているがシンプルな装飾の貴族服に、冷静な眼差し、一定のテンポで話す口調が相まって、俺はニュース番組のアナウンサーを眺めている気分になってきた。この男は自分の姉の不審な死に何も想いが無い。
何かを隠しているのか。いや、そんな気配が全くしない。
(続く)
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★あとがき★
人から聞いた話がいつも正しいとは限りません。
そんな情報の玉石混交具合をロジャーの回で描くことにしました。
グレゴリー議事官はたくさん教えてくれたけど噂話も多かったんですね。
次回、ロジャーとの対話が続きます。果たしてトーマスは何かを聞き出せるのか?