第9話「失われた家族」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
調べるとクロワ家は、代々高位の聖職者を輩出してきている名門の侯爵家だった。
本来、順位筆頭である長女アビゲイルは家長を継がずに枢機卿を務めている。この前、王属裁判所で声を掛けられたあの人だ。
そして次女が17年前に父ルーファスとともに暗殺されたリリー。彼女も聖騎士副団長という聖職者に就いていた。
そして一番下の弟ロジャーがクロワ家の当主になっている。
暗殺事件とセルヴィオラ家襲撃事件は同一犯によるものと判断され、その容疑者は全員死亡している為、捜査は途中で打ち切りになったと記録には書かれていた。アンナが仕入れてきた情報によれば、これに対してクロワ家は再捜査を何度も要望したが、それは実現しなかったという。クロワ家の名誉を守るためになんとしても真犯人を突き止めたかっただろう。
ロジャー・クロワに話を聞くことで、当時の捜査における不審な点や隠された真実に近づけるかもしれない。
王属裁判所で枢機卿たちと会った夜、例によって夜這いしてきたマリア伯爵に彼らのことを聞いてみた。
彼女は一瞬考える素振りを見せたが、すぐに肩をすくめた。「枢機卿か…ま、必要だがムダな存在だな」と、まるで興味がないかのようだった。
「マリア様は神を信じないのですか?」
彼女は俺を冷ややかに見つめ、口元に薄い笑みを浮かべた。
「神は信じるが教会は信じない。あいつら聖職者が神の言葉を代わりに伝えるというのは百歩譲って受け入れるとしても、そいつらを崇める理由にはならない。お前は私の伝言を伝えにきた子供にひれ伏すか? そんなことしないだろ?」
至極現実主義な答えとともにマリア伯爵は俺を羽交い締めにしてくる。
こんな性癖にもだいぶ慣れてきた。たぶんこれは愛情表現。すごく痛いけど。
「聖騎士団に枢機卿、教会のことを調べているようだな。狙うは教皇か?」
と、カマを掛けてくる伯爵に対して俺は「いや〜どうでしょうね〜」と誤魔化した風を装う。毎晩こうした腹の探りをかわしたり、騙したり。これも慣れてきた。
アビゲイル・クロワ枢機卿について聞くと、マリア伯爵はまたしても冷ややかな表情で「頭のいいおば様だが、考えが古臭い。私は嫌いだ。向こうも私のことは嫌いだろうよ。同じ枢機卿ならスカーレットの方が頭が柔らかくて革新的な思考でいいな」とバッサリ斬り捨てた。
伯爵は思ったことをそのまま言う。彼女がアビゲイル枢機卿の伝統を重んじた考えを嫌っている事はクロワ家にも伝わっているかもしれない。その部下が訪問してきたらどう思うだろうか。しかも道化師だし。
しかし悩んでいても仕方ない。
オリビア侍従にも話を聞かれてしまっていたようだし、クロワ家に乗り込んでみるしかない。
「ウォルター枢機卿はどんな方ですか?」
彼には興味はないが伯爵の関心を散らせる必要がある。と、思っての質問だったがコレが悪手だった。
「ウォルター? あんな日和見な奴になんか最初から狙いをつけてないだろ! トーマスお前、私を惑わそうと小細工をしたな…許さん」
羽交い締めが解かれたかと思った瞬間、マリア伯爵の脚が俺の脚を絡め取り、同時に腕を俺の首に深く食い込ませてきた。「ひ!」発せられた言葉はこれだけだった。彼女は俺の腰を強く捻り、首をさらに絞める。この大蛇に締め上げられるような技…これは…コブラツイスト!?
ギシギシと軋む自分の体の音を聞きながら俺の意識は遠のいていった…
(続く)
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★あとがき★
トーマスの場面に変わり、彼はリリー副団長の実家クロワ家の調査を始めました。併せて枢機卿の事も調べていき、いい感じでマリア伯爵から話が聞けていましたが最後は関節技で落とされ…って何なんでしょうこの話。。。
次回、トーマスはクロワ侯爵家を訪問し、その奇異な領主に手こずるのでした。
※8/20までは更新に手こずりそうです。と言いつつも頑張ります。