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第8話「王属裁判所にあったもの」 - 5

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

小鳥たちの囀りが耳に届き、街のあちこちで店が開店準備をする音が静かに響いてくる。

明け方の薄明かりが窓から差し込む中、ターニャはソファの上で新聞を広げていた。


彼女は眠れぬまま夜が明ける前から昨日手に入れた新聞を読んでいた。今も聞こえるその音に彼女の安眠は阻害された。妹アンナのいびきだ。


旅の疲れがどっと出たのだろう。

昨夜の肉料理専門店で彼女はたらふく食べ、満足感とともにそのまま店で眠り込んでしまった。

ターニャはアンナを起こして家に連れ帰りベッドに寝かせたが、その後自分はソファで眠るしかなかった。しかし、ソファで横になるとアンナの規則的ないびきが絶え間なく聞こえてきて、ターニャの眠りは浅く、途切れがちだった。


だが、そんな状況でもターニャは妹を愛おしく思っていた。

初めて姉と離れて旅に出たアンナは、きっと不安と緊張の連続だったに違いない。それでも、彼女はしっかりと有用な情報を掴んで戻ってきたのだ。特に、エミリーを先に早馬で帰らせた判断は見事だった。今日、この後に控えている三姉弟の面会で、トーマスがアンナからの情報を基にした調査結果を話してくれるだろう。


妹が眠るその横顔を撫でながらターニャは微笑んだ。

絶対に起きないと思ってそうしたがアンナは目覚めてしまった。


「ん…お姉様、もうトーマスのところに行く時間ですか?」


よほどトーマスに会うのを楽しみにしているのだろう、「まだ寝てていいよ」と伝えると、アンナはにんまり微笑み再び眠りについた。その様子が可愛くて思わずまた髪を撫でてしまう。


◇ ◇ ◇


昼前にようやくアンナが目を覚ますと、姉妹はカルメサス伯爵邸へと向かった。

既に陽射しが強く、石畳の道が白く輝いている。邸宅へ続く道には、手入れの行き届いた低木や花壇が並び、草木の緑が鮮やかに映えていた。


トーマスは侍従オリビアとともに伯爵邸の門の前に立っていた。アンナはその姿を見つけると、喜びを抑えきれずに彼のもとへ駆け寄っていった。


「ちょっとトーマス、あんた見ない間に背が伸びたんじゃないの? それに何よこの格好つけた服は。私なんか昨日まで土まみれ汗まみれで酷いもんだったっていうのに!」

アンナの明るい声が門前に響き、ターニャはその様子を微笑ましく見守った。


トーマスは少し照れながらも笑顔を見せた。

「アンナ落ち着けって、そんな2週間くらいで背が伸びたりするかよ」

上品な装飾が施された青いジャケット姿の洗練された装いが彼の成長を象徴していた。


「皆様、こちらへどうぞ」

オリビアが静かに促すと、三姉弟は伯爵邸の敷地内へと足を踏み入れた。

石畳の小道は緩やかに曲がり、敷地内を巡っている。道の両側には高く茂った生け垣があり、その隙間からは色とりどりの花が顔を覗かせていた。木漏れ日が庭園に柔らかな光を注いでいる。


案内された庭園の一角にたどり着いた。

そこには、こじんまりとしつつも見事に手入れされた木々が美しい風景を模して配置されていた。岩が巧みに組まれた庭石の間には清らかな水が流れ、小さな池を作り出している。その中央には4人掛けのテーブルセットが置かれ、周囲には淡い色の花が優雅に咲き誇っていた。


「さあ、こちらでお過ごしください」

そう伝えるとオリビアは庭園の端に移動した。そこに立ち、柔らかに微笑んだままこちらを見ている。


アンナはその視線に苛立ちを覚えずにはいられなかった。

「え、なんなのこれ! こんなジロジロ見られてたら気になって話ができないじゃない!!」と、不満が口をついて出た。


オリビアはそんなアンナの反応に微笑みを浮かべ、優雅に反論する。

「アンナ様、何をおっしゃいますか。せっかく久しぶりの三姉弟の面会です。カルメサス家としても最大限のおもてなしをしたく、このように美しい庭園を皆さんのためにご用意したのですよ?」


その言葉にターニャは苦笑しながら皮肉を込めて応じた。

「オリビアさん付きの庭園をね」


オリビアは一瞬冷たい視線をターニャに向けたが、すぐに表情を戻し、少し声を低めてこう返した。

「あらあら、これは手厳しいですね。ですが規則は規則、ご容赦ください。皆様よろしいのですか? こんな下らない話をしている間にも面会の時間は減っていきますよ?」


その言葉に焦ったのはトーマスだった。

「あわわわわ。姉さんたち、早く話そう、早く!」

彼は姉妹を椅子に座らせると小声で共有を始めた。

ターニャはルーファスの死について聞くと絶句してしばらく黙っていたが、やがて気を取り直して続きを求めた。


はりつけの惨殺死体で発見されたルーファス団長とリリー副団長。

ドワーフ族との共同管理だったリダニウ鉱山、不正会計の罪によるセルヴィオラ家の断絶。

セルヴィオラ家が襲撃を受けた際に救援に現れたティレタル家、マルトゥリック家、オーリンダール家。

ティレタル家は忍者を派遣し、後日お咎めを受けた。

マルトゥリック家は鉱山管理者を引き継ぎ、富を得たとの噂。

オーリンダール家はセルヴィオラ家の領地の一部を手にしたとの噂。

磔事件とセルヴィオラ家襲撃事件は同一犯だったと決着している。

アビゲイル枢機卿に襲いかかり、止めに入ったグレース副団長に斬られたラルフ団長。

聖騎士団の跡を継いだグレース団長とペネロペ副団長はオーリンダール家の者。

リリー副団長とアビゲイル枢機卿はクロワ家の姉妹。


「ちょっと待って待って。色んな貴族家が登場してよく分からなくなってきたわ」

直接情報に接していないターニャが話についていけなくなった。

それを聞いたトーマスは落ちていた木の棒を拾い、テーブルの下の地面に各貴族家の関係と登場人物を書き示していく。


挿絵(By みてみん)


「なるほど。グレース団長が王都にいない今、お父様に何があったのかは他の人を当たって当時のことを聞く必要があるわね。そしてリダニウ鉱山を巡る争いも関係している可能性がある。トーマスは各貴族家を引き続き調査、クロワ家も。アンナはリダニウ鉱山を管理するドワーフ族に会ってきて。私はラルフ様の遺族と古参の聖騎士団員を探して会ってくる」


ターニャの指示が終わったちょうどその時、オリビアが静かに近づいてきた。「そろそろお時間です」と穏やかに告げる。トーマスは急いで足元の図を靴で踏み消し、「ちょうど今、終わったところです」と答えた。


姉妹を門まで送り出す道すがら、オリビアはトーマスの横に並び、微笑みながらそっと問いかけた。

「クロワ家にお繋ぎしますか?」


「え・・・」トーマスは言葉を失い、足を止める。

オリビアは優しく微笑んだまま「当てずっぽうですよ」と言い残し、先へと歩いていった。


(第8話 完)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


★あとがき★

アンナのいびきエピソードを入れたら文字数が増えちゃいましたw

この回で三姉弟の情報は揃い、再び各地へ。

それにしてもオリビアは毎回ちょっと意地悪で全部見透かしているような存在になっちゃいます。でも何となくトーマスたちを応援しているんですよきっと。


次話、トーマスは再び図書館へ

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