第8話「王属裁判所にあったもの」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
街が一日の役目を終えて夕方に差し掛かった頃、ターニャも仕事から戻り、自室で過ごしていた。
昼間に手に入れた新聞と呼ばれている数枚の紙に熱心に目を通す。
新聞はつい最近の出来事をまとめた紙で、その新鮮な内容や今までにない形式の本ということで注目されている。前回は売り切れて買うことができず悔しい思いをしたが、今回は何とか入手できた。
そこには歓楽街に新しくできた劇場の紹介や工場の求人情報、近隣の都市の様子などが細かい文字で書き込まれていた。あちこちを渡り歩く冒険者や商人でもここまでの情報は持っていない。人気が出るのも納得だ。
開け放たれた窓からはそよ風と街の喧騒が入り混じって最上階のこの部屋に流れ込んでくる。
石畳を踏みしめる馬のひづめの音、重たい馬車の軋む音が時折響く。行き交う人々の話し声や、偶然の挨拶が遠くから聞こえ、風に乗ってふわりと消えていく。
それを遮るように石畳を揺るがし、一際大きな音を立てた馬車が近づいてくる。
馬が鼻息を荒げ、空気を震わせるような力強い音が響いてターニャの建物の前で止まった。
ターニャは新聞から顔を上げた。帰ってきたようだ。
馬車のドアが荒々しく開かれ、続いて騒がしく階段を駆け上がる足音が廊下に響く。
次の瞬間、勢いよくドアが開かれた。風が吹き込むと同時に、明るい声が部屋を満たした。
「お姉様、ただいま戻りました!」と、妹アンナの笑顔が飛び込んできた。
遅れて忍者アーノルドとジャックも部屋に現れた。
ターニャが2人に道中警護の礼を伝えると「むしろ私たちが守られていました」と意外な言葉が返ってきた。ティレタル家からの帰り道に何度か魔物と遭遇することはあったが難なくこれを撃退、そこでのアンナの風魔法は強力だったという。彼女の魔力は著しく成長しており、忍者たちがアンナを守る必要はほぼ無かったそう。
そう言われてみるとアンナが少し逞しくなったような気がしてくる。当の本人は早く風呂に入って温かいスープを飲んでフカフカのベッドで寝たいと騒いでいる。いつものアンナだが。
「アンナ、無事に戻ってくれて良かった。ちょうど明日がトーマスと会う日だよ」
◇ ◇ ◇
久しぶりに揃った姉妹は夕食に出かけた。
アンナの「お肉!お肉!お肉以外胃が受け付けません!」という強いリクエストで選ばれたのは肉料理専門店。
専門店は王都でも珍しく数軒しか存在しない。その中でこの店は特に人気があり、比較的高級な店だ。
工場で働き詰めた労働者の月一回の贅沢の場であり、金持ち商人はここに頻繁に現れることで威厳を示す。そんな特別感を満たしてくれる店は金箔をそこかしこに散りばめた派手な内装で来る客の優越感を満たす。
この日も特別な夜、記念日を過ごす大食漢たちで店は賑わっていた。
負けじとアンナもローストビーフ、ラムチョップ、牛肉をふんだんに使ったシチュー、ハーブが香るソーセージなどの名物料理を次々と注文する。
「ちょ、ちょっとそんなに食べれるの? それにこんなに頼んでお会計がいくらになるか恐ろしいわ・・・」
「お姉様、食べる時は食べる! 会計なんか気にしちゃダメです。でもね、私は知ってますのよ? お姉様は劇場で早速売れっ子になって特別ボーナスを何度ももらってるって。だから遠慮しません!!」
「な、なぜそれを・・・」
それはアンナたちよりも先に早馬で戻った忍者エミリーの諜報活動によるものだった。
そして収集されたその情報はいち早くアンナに報告されていた。いつの間にか忍者たちはアンナの情報網として暗躍し始めていたのだった。
「明日はトーマスが調べてきた情報と私の情報を合わせて次の作戦を決めましょう! あ、このシチュー美味しい~おかわり決定~」
アンナはご機嫌でテーブルに所狭しと並べられた肉料理を頬張っていた。
(続く)
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★あとがき★
ティレタル家を訪れていたアンナたちが戻ってきました。
元々のシナリオではそのままマルトゥリック家などを巡る予定だったのですが、グロゴリー議事官のセリフを読んでいるうちに「これは次行かないで帰るね」と思ってしまい、帰還してもらいました。
★この世界・物語の設定★
少ないけども専門料理店がある
次回、久しぶりに三姉弟が揃って次の作戦を考えます。