第8話「王属裁判所にあったもの」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
やはり実家セルヴィオラ家は長年に渡ってリダニウ鉱山の収益を国に対して誤魔化していた。残念だが潔白な立場ではない。
これが伯爵家の断絶まで至るという事は相当な額の所得隠しだったのだろう。
判決に至るまでの記録を探そうとさらに書類を読み漁っていると、誰もいなかった書庫に遠くから話し声が聞こえてきた。
「…ここで書類を読んでると夢中になってて夜になってることにも気づかないなんてことがよくありましたよ」
「みんな同じですね、私もしょっちゅう行方不明扱いになって探されていました」
「最近はここに来る時間もなくて…いやあ懐かしいなぁ」
年配の男女の方々のようだ。確かにここで没頭してたら誰にも気づかれずに行方不明者にされてしまうだろうな。俺も気をつけようっと。
さてさて、リダニウ鉱山の管理者についての記述を見つけたぞ。裁判になるまではセルヴィオラ家とドワーフ族で共同管理とある。人間とドワーフの共同事業なのか、珍しい。セルヴィオラ断絶に伴い、人間側の管理者はマルトゥリック家に変更。アンナが仕入れてきた情報通りだ。
ドワーフについての情報はないかな…と記録書をめくっていると
「そこの少年、熱心だね。何を調べているんだい?」
おば様に声を掛けられた。振り返ると若い女書記官に連れられたおじ様おば様たちがこちらを見ていた。先ほどの集団だ。みな高級そうな司祭服を着ている。聖職者のお偉いさんたちか?
「あ、はい。ここ数年の納税申告漏れを調べています」
適当に嘘をついた。
「それは骨の折れる仕事だね。しかし税収の確保は国家運営に欠かせない。君はどなたの家の者かな?」
「はい! マリア・カルメサス伯爵家の者でございます」
「おお、カルメサス殿か。彼女は国家の発展にとても積極的なお方だ。あの方の下でたくさん勉強するといい」
ありがとうございます、と礼を言いながら深々とお辞儀する。面倒臭いから早くあっちに行ってほしい。まだまだ調べないといけない事がある。
向き直って書類を再び開こうとした時、別のおば様にさらに声を掛けられた。
「待て少年、君が見ているのは10年以上前の事件の資料だ。数年前のものを探すならばあちらの奥の書棚だよ」
しまった。嘘が適当すぎた。
「え!! あ!本当だ、ありがとうございます」
「さすがはアビゲイル様。私は気づきもせずに偉そうに講釈してしまいました」
「いえ、スカーレット様。過去に間違えて延々と見当違いの書類を調べて時間を無駄にした事がありまして、つい余計な口出しを」
そこに恰幅のいいおじ様が混ざってきた。
「いやいやお二人ともさすがです。我々は神の教え以外でも人々を救うことができると証明しましたな、はっはっはっはっ」
やはり聖職者のようだ。何が人々を救うだ。
俺を真ん中に置いて、微妙に牽制し合うようなやり取りやめてくれ…
「ウォルター枢機卿、皆様、そろそろ次の予定が迫ってきています」
時間を気にしながら書記官が割って入ってきた。この人たち、枢機卿だったのか。枢機卿といえばこの国の教会最上位層の人たち。
「おお、そうですか。では少年、この国の未来を築く仕事だと肝に銘じて励まれよ。また会おう。神のご加護がありますように」
枢機卿たちは俺に祈りを捧げ、来た道を戻っていった。
作法はよく分からなかったがこちらも深くお辞儀しておいた。
(続く)
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★あとがき★
教会のお偉いさん方と出会う回でした。
彼らとはまたどこかで交わる時が来るでしょう。
★この世界・物語の設定★
枢機卿は教会における最上位層の地位。
ちなみに一番上は教皇。
次回、トーマス、父ルーファスの死についての記録を遂に見つける