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第8話「王属裁判所にあったもの」 - 1

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

姉さんから共有されたアンナからの話は強烈でだいぶ濃厚な内容だった。


俺たちの実家セルヴィオラ家が断絶になったのは、15年前に発覚した不正会計によるものらしい。

管理しているリダニウ鉱山の収益申告に虚偽があったとか。清廉潔白な貴族なんて居ないだろうとは思っていたが、これが事実ならウチの実家は何十年も前から鉱山の権益で私腹を肥やしてきたという事だ。


そして、その後に起きたセルヴィオラ家への襲撃の犯人は全員死亡、素性は不明。この時救援に駆けつけた貴族家は3つあった。


1つ目は、ティレタル家。議事官の判断でいち早く忍者たちを送り込んで俺たちの母と姉さんを救出したが、後日お咎めがあり、家としては当時のことはあまり語りたくない話になっているという。


2つ目は、マルトゥリック家。犯人たちの大半を撃退したのがこの家の騎士たちらしい。この家はセルヴィオラ家断絶後にリダニウ鉱山の管理を引き継ぎ、多大な利益を得ているとのこと。単純に考えると一番怪しい。


3つ目は、オーリンダール家。脱出を試みたセルヴィオラ伯爵夫妻の護衛に向かったが、時すでに遅く犯人たちに夫妻は殺されていて看取る事しかできなかった。この家もセルヴィオラ家断絶後に元々境界線を争っていた領地を手に入れて利益を得ているとのこと。ここも怪しい。そしてこの家は聖騎士団の団長グレースと副団長ペネロペの実家だ。


ここまでの話は人から聞いた話の寄せ集めだ。人の話は主観が混ざっているし、又聞きは話を歪める。公的文書で裏取りをしていかねばならない。


◇ ◇ ◇


高くそびえる天井に下から上まで書物が敷き詰められている。数々ある棚の間には細い通路が走り、まるで迷路のよう。この知の迷宮に迷い込んだら出てこれるか心配だ。


「着任早々に王国の裁判記録を紐解くとはトーマスさんは熱心な勉強家なんですね!嬉しいなあ」


この迷宮を案内してくれる書記官コリンは同志に出会えたと思っているのだろう、国政を学ぶにあたっては裁判でどういう判断がなされてそれによって社会や経済がどう変わっていったかを理解するのが近道だが皆はそれに気づいていない、裁判記録を軽視しすぎていると長々話してくれた。


こういう話は嫌いじゃないのだけど、呆れるほど王属裁判所の廊下は長く、コリンの話もその分続いた。


挿絵(By みてみん)


「さて、着きました。ここからがベレンニア王国の裁判記録です。手前から奥に向かって時を遡ります。10年前から20年前というとあの辺からあの辺かな。大事な記録なので丁寧に扱ってくださいね。では私は戻ります」


具体的な年月を知られないよう幅広に伝えたのが運の尽き、コリンがあの辺と指したエリアは広大だった。


「ほう、今度は聖騎士団の過去の話だな?」


王属裁判所に取り次いでもらうにはマリア伯爵に話を通す必要があった。伯爵の宮廷道化師が王属裁判所を勝手にウロウロすることはできない。そこでもっともらしい理由を考えて彼女に相談すべきなんだが、何せ先日聖騎士団副団長との面会を作ってもらったばかりで、次は裁判記録を調べたいと言い出せばこれが無関係という方が怪しい。色々考えた挙句、そのまま相談した。そして案の定、狙いを見透かされた。


未だマリア伯爵が俺たちの敵か味方かは分からないが、泳がせてやりたいようにやらせてくれている。こちらとしても何が誰の地雷なのかは分からないので恐る恐る踏んでみるしかない。


コリンに礼を言って膨大な書棚と向き合う。


「さて、と」


現在はマピゼ暦5663年、15年前だから5648年…ん? 襲撃があったのは5646年じゃなかったっけか?


時計やカレンダーの無いこの世界では年号の把握が難しい。ただ記憶には「5646」という数字があった。仕方ない。この辺を片っ端から調べることにした。


手前にあった5648年の裁判記録をペラペラとめくって見ていく。起きる事件はどの世界も同じようで、不倫のもつれからの殺人事件、酔った勢いでの刃傷沙汰、出来心からの窃盗。貴族は特権によって訴えられる事は少ないようだがそれでも時々裁判記録に登場していた。貴族の裁判は不正会計による利益隠しが多い。それっぽい事件はあるもののセルヴィオラ家は出てこない。違ったか。


途中で切り上げて5646年を探す。こっちに答えがあるとすると15歳だと思って過ごしてきた俺は17歳だってことになる。時計がないとこんなにも年齢に適当になるのか…


「マピゼ暦5646年、セルヴィオラ家はリダニウ鉱山の収益を長年に渡って過小申告してきた罪で裁判になり有罪。これだ!」


17年前の裁判記録にそれはあった。

やば…俺は15歳じゃなくて17歳だったんだ。


青春時代を失った気がして寂しい気持ちになった。せっかくの2度目の人生だったのに…


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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★あとがき★

少し前にトーマスたちの年齢を数え間違えてたことに気づき、ここで調整しました。

時計やカレンダーのない世界ではたしかに年齢を間違えてそうですが、実際支障がある場面ってそんなにないんだろうなと思いつつも訂正。


★この世界・物語の設定★

この世界の暦は「マピゼ暦」。マピゼは時を司る神。


次回、トーマスがさらに書類を読みふけっているとある人たちが現れます。

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