第7話「聖騎士との出会い」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
川沿いのティサネリーは木いちごのフルーツタルトが看板商品だった。
どうやら来ているお客さんは皆注文しているようだ。
「僕らもあのタルトを頼みましょう」
「いいですね」
話題を求めるようにフェリックスはタルトを注文した。
ターニャは次にどんな話をすればいいのか考え込んでいた。妙に今のこの場面がデートっぽくて慣れない、分からない、居心地が悪い。
同じく黙り込んで川を眺めていたフェリックスが、夕焼けに染まる水面を見つめながらふと呟いた。
「本当に美しい景色の場所だ。王都の外では魔物がうろつき、国境には魔王軍が攻めてきている現実が嘘のようです。みんなこの気持ち悪いほどのギャップに気づいてるんだろうか…」
その言葉にターニャはハッとした。
王都に来てからずっと感じていた何かのズレ、風刺巧芸杯での風刺を通じて観衆に伝えたかったことをフェリックスがそのまま口にしていたのだ。
「そんなに今王都の外での戦いは激しいのですか?」
「ああ、すみません。王国全土で戦いが起きているわけではありません。我々聖騎士団は王直属の騎士団として最も戦火の激しい地域に出征します。だからそう感じてしまったのかもしれません」
「そうなのですね。私は月明かり団と旅をしていた1年ほど前に魔王軍の話をイリアーデイで少し聞いたことがあります」
「ターニャさん、イリアーデイに居たんですね! 今はあの都市が魔王軍との戦場、最前線です。あの町の軍隊は非常に強いのですが、魔王軍との攻防は一進一退です。今ごろは聖騎士団を始めとする各地の軍隊がイリアーデイの救援に集結しています。今度こそ撃退しますよ。何せ今回の作戦はですね…」
と、そこへフルーツタルトとハーブティーが届く。夢中になって話していたフェリックスは作戦の中身は話してはいけなかった事を思い出して黙った。
察してターニャが質問役に代わった。
「私、広場のティサネリーに入って、聖騎士団の凱旋に何の興味も示さない人たちが多くて驚いたんです。聖騎士団はこんなに頑張っているのに認められないのって辛くないのですか?」
「聖騎士団の遠征に無関心な市民が多い事は知っています。グレース団長はいつも仰るのです。『我々は国に仕え、王に仕え、信仰に仕えている。我々の剣や盾が国民の繁栄と安寧をもたらす。我々が導きの光になることで敬愛と信仰の灯火は再び大きく熱く輝く』と。我々の信念の行動は何があっても変わる事はありません。いつかその方々にも分かってもらえます」
フェリックスの言葉には力がこもっていた。
「グレース団長…あの女性の、紫の鎧の…」
「そうです、その方がグレース様です。武家として名高いオーリンダール家のグレース様と言ったら騎士で知らぬ者はいないでしょう。お美しく強く気高いお方です。団長の言葉には強い信念があります」
フェリックスは嬉しそうに話す。彼の声は尊敬と誇りに満ちていて、ターニャにもその感情が伝わってきた。
「さあ、今度は私の番です。ターニャさんの事を教えてください。いつもその覆面を外さないのですか?」
それは意外と聞かれない質問だった。
「…気になりますよね…我が家では女性は20歳になったら人前では顔を見せてはならないという掟があるのです。色々と不便なのですが仕方ないのです。特にこうした食事の時は困ります」
「あ…家の掟だったのですね、失礼な質問をしてしまい、申し訳ございません」
咄嗟に思いついた嘘だったが、トーマスやアンナの年齢とも辻褄は合っていた。「気にしないでください」とターニャは次の質問を促した。
「ターニャさんは剣士でもあると聞きました。先日の風刺巧芸杯でもカルメサス伯爵の騎士を圧倒する試技を披露されたとか。どこで身につけられたのですか? 何か有名な流派のお弟子さんだったりするのでしょうか?」
「私は旅芸人になる前は冒険者でした。その時に身につけた我流です。風刺巧芸杯の時は雨が降っていて騎士様が足を滑らせてたまたま私に有利に事が運んだだけです。もう一度やったら私が一瞬で倒されます」
「本当かなぁ〜。現場を目撃した同僚は『すごい女剣士がいた』と興奮していましたよ?」
「そんな…買いかぶりすぎです。あ!見てください! 今あそこで魚が跳ねましたよ」
夕陽に輝く川を指差す。話を逸らすことに成功した。
「え?どこ?どこですか?」
「あそこですあそこ! あぁもう見えなくなっちゃいました」
「うわー見逃したー」
嘘しか話していない自分に後ろめたさを感じながらも、ターニャはフェリックスと過ごしている時間がとても楽しかった。会話が弾み、時間が過ぎていく。
(続く)
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★あとがき★
引き続きターニャの恋愛回。難産な文章でした。できたけど全く満足していません。
そんな中でも聖騎士団のことが少しずつ分かってきます。
次回、もう少し聖騎士団のことが知りたいぞ