第7話「聖騎士との出会い」 - 1
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
ターニャは繁華街の劇場で毎日踊り子として出演する生活を始めていた。
月明かり団にいた時も風刺だけでなく歌や踊りもやっていたので特に不自由なくターニャは劇場に馴染んでいった。
舞台の上では帽子こそ取るものの、顔の半分以上を隠すようにスカーフを巻いて踊る姿は、ミステリアスな魅力として注目され、馴染むどころかターニャはすぐに人気を集め始めていった。
人気になり注目されだすと、風刺巧芸杯に出ていた事に気づく人も現れ、ますます注目の的になる。
この日も出番を終えて劇場の楽屋口から出ると、ファンたちが出待ちをしていた。
「ターニャさん、今日もお美しかったです!!」
「今度は剣の舞踏もやってほしいです! 巧芸杯の時のような凄いのを見たいです!」
「これから我々と食事に行きませんか? もちろんご馳走しますので」
「そうだ、行きましょう、行きましょう!」
「あ、あの…」
笑顔で応対していたターニャだが囲まれたまま動けず困っていた。
「これこれ、皆の者! 困ってらっしゃるじゃないか。道を開けなさい」
割って入ってきたのは若い騎士だった。
落ち着いた色合いのチュニックを着たその騎士の首には聖騎士だけが持つ紋章のペンダントが下げられていた。
ターニャを取り囲んでいたファンたちは聖騎士の登場に驚き、なぜここに来たのかを尋ねると「非番の時は私もここに楽しみに来ているのさ」という。「いいからみんな解散だ、さぁ帰った帰った!! あなたはこちらへ」とその聖騎士は取り囲む男たちを追い払ってターニャを連れ出した。
「なんだよ、聖騎士だからって独り占めはないだろう」という後ろからの文句の声も気にせず、聖騎士はターニャの手を引くと繁華街と中心街の境界である橋の方まで連れて行った。
「あの…ありがとうございます、聖騎士様なのですか?」
グレースが団長を務める聖騎士団の一員だというならば父に関する話を聞き出せるかもしれない。
「はい、私は第14代聖騎士団のフェリックスと申します。この辺は酔っ払いやタチの悪い者が多いです。私が中心街までお連れします」
フェリックスは20歳そこそこだろうか。自分より若いがしっかりとした芯を持っていて、無垢な笑顔と丁寧な言葉遣いからは彼の育ちの良さが感じられた。
聖騎士と知り合えるとはラッキーだ。このまま少し話をしたい。そんなことをターニャは考え始めていた。
◇ ◇ ◇
橋は今日も荷馬車が忙しく行き来している。
往来の邪魔にならぬよう端の方を2人で歩きながら自然と会話が始まった。
「改めてありがとうございます、フェリックス様。私は踊り子のターニャと申します」
「もちろん存じ上げていますよ、ターニャさん。私は以前に月明かり団の舞台を見て以来、貴女のファンなのです」
「そうだったんですね。ありがとうございます。私も先日聖騎士団の凱旋を広場で見ましたよ。フェリックス様もその中に居らしたのですか?」
ターニャは温かく迎える市民たちとは対照的に傷つき疲れた表情で広場に現れた聖騎士団を思い出していた。
「ええ、新米なので後ろの方ですけども並んでいましたよ」
和やかに会話は続き、2人は長い橋を渡り終えた。
ここでお別れかなという雰囲気になりかけた時、フェリックスは意を決してターニャを誘った。
「あの…ターニャさん、もしよろしければそこのティサネリーでもう少しお話しませんか?」
「えっ」
爽やかだけれども少し緊張した笑顔のフェリックスにターニャはドキっとした。
聖騎士団のことを知りたいと思って彼との会話に乗ったのにいざ正面から誘われるとどうしていいのか分からない自分がいた。
言葉を返せず俯いていると、フェリックスが焦って捲し立ててきた。
「あ、いや、申し訳ありません。ターニャさんと話すのが楽しくて、つい不躾なことを言ってしまいました。忘れてください。私はここで帰ります」
「いえ! ぜひご一緒させてください。お誘いとても嬉しいです」
2人で深くお辞儀しあって滑稽な場面になっていた。
土手を降りて2人は川に面したテラスがあるハーブティー店、ティサネリーに入る。
夕方を迎えつつある陽射しを浴びて川の流れが乱反射し、キラキラと輝いている。時折、魚が跳ね上がりきらめきをさらに加えている。
川べりの席に通された2人はその美しく輝く川にしばし目を奪われ立ち尽くした。
「なんと美しい場所なんだ…」
「本当ですね…声を失います」
(続く)
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★あとがき★
姉ターニャの恋愛回を混ぜてみたくて設定したのですが、完全にこの分野が苦手なのだと思い知りました。それでも彼女には少しでも恋を感じて欲しいと思って無理して書いてます。
これも結末には影響する話ですし。
★この世界・物語の設定★
聖騎士の仕事にも非番がある。
聖騎士であることを示す紋章がある。
次回、ティサネリーで2人は互いのことを知り、そして興味を深めていきます。