008 終わった世界の見送り方
――二人が出会った日まであと二日。
「じゃ、行ってくるよ」
いつも通りに起きて、いつも通りに朝食を食べ、いつも通りに行こうとするお兄ちゃんを私はつい呼び止めてしまった。
「本当に大丈夫なの?」
「アリスは心配性だな。もう大丈夫だよ」
お兄ちゃんはニコッと笑って出て行ってしまった。
「お兄ちゃん……」
お兄ちゃんが心配だけれど、今は私が出来ることをやるだけだ。
「――私も、行かなきゃ」
着替えて洗面台の前で髪を整えようとして気付いた。
「なんで……」
洗面器の端に薄らと血が乾いた跡があった。
お兄ちゃんの体のことを聞くために、私は日が暮れる前に教会から帰った。
「お兄ちゃん遅いなぁ、大丈夫かな……?」
いつもなら帰ってくる時間なのに。
待っている時間が長くなるにつれ、不安も大きくなる。
「どうしよう、どう切り出せばいいんだろう……。それに――」
「ただいまー。ん? アリスそんなとこで何しているの?」
「ひゃいっ? 別に何もっ、ってその前におかえりっ! そ、そうだご飯にする? お風呂にする?それとも」
「それとも?」
「それともは無しでっ!」
――それに、もし聞いてしまったらもうこんな時間には戻れなくなるような気がして、結局私は聞けなかった。
その後は昨日と同じようにお兄ちゃんは自分の部屋へ研究を続けるためにすぐ行ってしまった。
「はぁ、どうしよう。聞けなかった」
ベッドで横になりながら思い悩む。
「一見何ともなさそう、だけど」
昨日の帰ってきた時の様子、今朝の洗面器の血を思い出す。
不安に胸が締め付けられる気がした。
「明日こそ、聞くんだ」
自分に言い聞かせて、私は不安から逃げるように眠りについた。
ぐっ、がはっ……。はは、は……近いな……。
その夜、私はまどろみの中で苦しげなお兄ちゃんの声を聞いた気がした。




