004 終わった世界の切り替え方
「じゃ、行ってくるよ。あんまり家から出ないようにね」
朝食を食べ終えて、すぐに着替えたお兄ちゃんが私にそう言った。
「また研究のために外に出るの?」
「そうだよ、あともう少しでここ一帯の環境がどんなものだったのか、そしてその元の姿に戻せる手がかりが掴めそうなんだ。それに、あの病に対してのワクチンも作れるかもしれない」
「――『アッシュ』の、ワクチン?」
「そうさ、『アッシュ』のワクチンがあと少しで完成しそうなんだ。……もう誰も犠牲にならなくていい、いや、なってほしくないんだ」
「お兄ちゃんならできるよ! けど、無理しないでね?」
言葉ではそんなこと言いながら、心の中では私は違うことを思っていた。
本当はワクチンなんてどうでも良かった。
この世界が元の姿になったって、灰色のままだってどちらでもいい。
お兄ちゃんさえいれば。
二人でいればこの灰色の世界だって、私にはとてもきれいに見えているのだから。
「じゃ、そろそろ行くよ。アリス、おとなしくしてなよ?」
「うん! いってらっしゃい、お兄ちゃん!」
でもそんな心の声は伝えられなくて――
私は笑顔で見送ることしかできなかった。
ガチャンと、扉の閉まる音だけが響いた。
お兄ちゃんを見届けた後、私はふとお兄ちゃんの研究机を見た。
たくさんの本とグラフが埋め尽くしているのを見て、思う。
お兄ちゃんの研究はお兄ちゃんのお父さんとお母さんから受け継いだもの、なんだよね。
そんな研究、途中から家族になった私なんかが邪魔できないよね。
――ホントは研究なんてやめて、一緒にいてほしいけど。
「あはは、そんなこと言えないよね」
弱気に笑って私はクローゼットへ向かった。
「もうあと三日しかないし、早くあれを集めに行かなきゃ!」
私は暗い気持ちを切り替えようと勢い良くクローゼットを開いた。




