001 終わった世界の起こし方
朝日が昇る、それと同時に今日も私は任務に赴く。
何度と重ねてきたこの日課に私は絶対の自信と誇りを持っている。だから一切の油断も隙も見せはしない。
いつもどおり気配を消し一撃で、決める。
標的は私に気付いていない、あまりに無防備な姿で眠っている。
万が一にもその標的に気取られないよう、慎重かつ迅速に距離を詰めていく。
……よし、射程圏内だ。
心の中でそうつぶやくと同時に、私は大きく息を吸い――
「お兄ぃちゃーーーーーーーんっ!」
――そう全力で叫んだ。
「うっ、うわぁぁぁぁっ!」
いきなりの襲撃に驚き、ソファから転がり落ちるターゲット、もといお兄ちゃん。
――ふふ、任務完了!
心の中でガッポーズをとっていると、ソファの下からふらふらとお兄ちゃんが起き上がってきたのが見えた。
「ごほっ、あ、アリスっ! その起こし方はやめてくれって、げほっ・・・」
「えへへー、何度も同じ手に引っかかるアウルお兄ちゃんが悪いんだよー!」
使い古されたソファから出た埃を吸い込んでむせているお兄ちゃんを後目に、私は玄関の扉を勢いよく開いた。
「今日はいつもよりも少し明るいね!」
いつもの光景。
灰色の雲がひたすら空の終わりまで続いている。
街もそれに合わせるかのように全て灰色に染まっている。
そんな、いつも通りの風景。
「おおー、今日はよく見えるよ!」
まだむせているお兄ちゃんに声をかけてみる。
「ごほっ、ほ、本当かいアリス?」
お兄ちゃんがおぼつかない足取りでやってくる。
「すごいな、こんなに見通しが良いのは久しぶりだよ」
ここからは遠く、いつもは雲のせいで霞んで見えないけれど、
少しだけ顔を出した青と赤の太陽のおかげで今日ははっきりと見えた。
灰色の鉄塔。
それは遥か先、崩れ落ちた摩天楼の中央にひっそりとそびえ立っていた。
昔はあれがこの国のシンボルだってお兄ちゃんが言ってたっけ。
「お兄ちゃん、あれって昔は赤かったって本当?」
ふと私が初めてあの塔を見た時にお兄ちゃんが話してくれた事を思い出して聞いてみた。
「あぁ、ぼくも父さんから聞いた話だから本当かどうか分からないけどね。
この国に住んでいていた人たちが、『黒鯨』と呼ばれる兵器で海底へ姿を消す前の時代の話だね」
そんな風に言ってお兄ちゃんは苦笑した。
「ふぅん、私は信じられないなぁ」
「仕方ないよ。僕だって未だに半信半疑だしね」
「へぇ、じゃあこの辺の風景も全然違ったりしたのかな?」
「どうだろうね、元からこうってことはなかっただろうけど、あの鉄塔より高い『テンジュ』という塔もあったらしいし。そういう過去を知るためにもぼくは父さんと母さんの研究を引き継いだんだけどね。……それよりアリス、そろそろ閉めないか? もう夏に入って結構経ったし今年も雪が降るってエザ先生が言ってたからね」
「また雪が降るの? ……あの灰色の?」
「ああ……、またあの灰色の毒が降るんだ」
「……ねぇ、お兄ちゃん。あの雪も昔はユウガイじゃなかったんでしょ?」
「あぁ、そうだよ。何ら毒は無いし、元々は白かったらしい」
「そういえばさ、お兄ちゃんと私が初めて会ったあの日の雪は、白かったよね」
「ああ、あの日は本当に運よく、白い雪が降っていたね」




