012 終わった世界の旅立ち方
――5年後。
「久しぶり、お兄ちゃん」
私は久々に、屋根のない吹き抜けの廃墟を訪れた。
「ここも変わらないなぁ。あ、ごめんね、最近は研究が忙しくて会いに来れなかったね。でも、あともう少しだよ。まだこの一帯ってわけじゃないけど、ずいぶんと家の周りでは草木が生えるようになったよ。これもお兄ちゃんの研究の成果だね」
屋根が無く、やはりそこから吹き抜ける風は冷たい。
けれど、私は話す。
お兄ちゃんの姿は見えないけれど、これが最後になるかもしれないから。
「でね、私もここの環境みたいに少しずつだけれど、変われていたりするかな? あはは、あの時よりは泣かなくなったよ。でも、まだ時々、ね。それでさ、ちょっと遠出してくることに決めたんだ。ここのサンプルだけじゃまだまだ足りないみたいでね。もしかたらこれで最後になるかもしれないから、お兄ちゃんに会っておきたかったんだ。大丈夫かって? うん、私にはこれがあるからね」
私は首にかけられた『アリスクォーツ』を撫でた。
「それに、もしもの時はお兄ちゃんが駆けつけてくれるでしょ? 約束だからね。うん、そろそろ行くよ。遅くなるかもしれないけど、待っててね。じゃあね、お兄ちゃん」
私はそう言い残して、その場を後にした。
「さぁて、あの翡翠の海をどう渡ろうかな!」
どうやって大陸へ出るか思案する私。
その私の後ろで『スノードロップ』に囲まれたお兄ちゃんが手を振っている気がした。