生きたい
1か月後
学校の正門前で真一に会う。
「おはよう、真一今日の気分は?」
「おはよう。ああ。まあまあかな。学校側がいつでも、早退できるようにしてくれたから気分的に楽なんだ。でも進も香枝も俺みたいな、病人といても楽しくないでしょ?」
「こういう突っ込みやめてくれない」香枝が睨む。
「でも倒れた時にそばにいてくれると便利だからな。君たちを離さないよ」と言って二人の間に入って腕を肩にからませる。真一は少しずつ私たちに打ち解けてきた。
そう進とはあの真一の家からの帰り道から、私たちは友達としてできるだけのことをしていこうと決めた。元来、進はテニス部では後輩に面倒みがいい方である。
「おれは、いいけど。香枝は、ほとんどマネージャーみたいなもんだからな」
「・・・な、なんの話」ほら。聞いてないと、真一と進は笑いあう。
真一が、テニス部を見学したいといいだしたのだ。
病気のことが気がかりで少し乗り気でなかった進も、今は真一とすっかり凸凹コンビである。
放課後
本当は、香枝も俺も真一が本当にグランドに来るなんて期待はしてなかった。1日授業を受けることさえ、今の彼には難関なのだから。
だから彼の姿が見えた時、進はとてもうれしかった。その反面、気分は悪くないか倒れないか余計な心配をしておちつかなかった。反対側の女子コートの香枝も、同じ心境だろう。
30分ぐらいは、見ててくれただろうか。時々、俺たちのどちらかに大袈裟に手を振ってくれた。
コート内では、同級生の緑子が「アンタのファンが来たね」と、からかわれる。真一とつるむようになってから、今までにも周りからはいいろんなことを言われてきた。
(先輩達最近、病弱そうな男子を連れてる)
(ボランティア?)心無い声が、つきささる。
(なんか、陰と陽じゃねえ)
(お前ら、先生にたのまれてるの?)その無責任な言葉は真一にも、聞こえてるだろう。
(点数稼ぎ?)
そんな、耳障りな言葉に
(うるさい、うるさい、黙れ自分達は何もしないくせに。真一のことを、何も分かろうとしないくせに・・・)
押しつぶされそうになった時もあった。でも、進も香枝もお互いに励ましあって、真一と共に歩んで来た。
真一は友達であり時にはシャイで可愛い弟であり、同じ歳でありながら生と死を一人孤独にずっと戦ってきた戦士だ。
真一を知れば知るほど進と私は彼のか弱い身体付きからは、はかりしれないパワーや、思いやりがあることを知った。
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部活が終わった帰り道
「ねえ。進路そろそろ考えてる?」緑子が、不意に話しかける。
「おれはテニスが盛んな大学に進学して、しばらくテニスを続けたいなあ」進はいう。
「叔母さんがねぇ、リフレクソロジーをやってるでしょう。一緒にやらないかって誘われてる」そう、進も私も足がつったり、痛みがあった時に何十回も揉みほぐしてもらった。小柄なのに、声の大きなインパクトがある女性。学生だし緑子と友達だからと無料にしてくれたが、さすがに3回目からは半額は払うようにはしたが。出世払いでいいのよ。どうせ暇なんだからと言って受け取ってくれてない。その時の顔が思い浮かぶ。
「私は・・・何も考えてないかも」
「香枝らしいね。でもまあ、あと半年はあるからね」
「遅くねえ?香枝のことだから、どうせ安全パイの人生だろう。のらりくらり楽しみながらマイペース」
「なによ。それ、誉めてないでしょ?!」
「誉める所あるのかよ。」
「まあまあまあ。私ね、香枝の面倒身がいいところとテニスに一生懸命な所。といってもボール拾いしたり、コート整備したり、部員の子の肩をもんであげたりっていうそういう所好きだな。損得考えてない性格」
「これ、誉められてる?」香枝はふくれっつらで言い返すと、緑子は笑いながら香枝こそリフレクソロジーや介護職に向いていると提案してくれた。
「まあ、運動神経がなくても出来る裏方仕事なら向いてるかも」だな。と、進はチラッと香枝を見ながら答える。
「それ、どういう意味だよー」と言いつつも、三人とも妙に納得していた。