普通の高校生って
3人で遊園地へ行った次の日から真一は学校に来なかった。
帰りにボソッと言った言葉を聞き取れなかったが、嫌な予感がした矢先だった。
放課後同じクラスの進は先生に理由を聞きに入ったが。先生は家庭の事情と
いうことでそれ以上は語らなかった。
進と香枝は自分達ばかり夢中で楽しんでいた時、体調が悪くなっても遠慮して言えなかったんじゃないかと反省していた。
学校帰りに二人は真一の家にいくことに決めていた。
ノート類やプリント類等頼まれた荷物を抱えて、学校からはたった10分程度の所にある真一の家に向かった。
僕たちを出迎えた真一の母は、真一をもっとふっくらとさせた感じの顔だ。「あなた達ね、真一と遊園地に行ってくれたのは」と泣きそうな声で話し出す。
その時話してくれたのは、衝撃的なことだった。
真一は難病を克服したのではなく、病気と戦っている最中に転校してきたのだった。
もともと、小さなころから病のせいでろくに学校に通えなかった。それでも院内学級や独学に近い形で、体調の良い日の合間に頑張って勉強は続けてきていた。
だが、心が折れて二度の自殺未遂をしたのだった。
「いつ死ぬかわからないのに、なんで生きなきゃならないの?」寡黙な真一の溢れ出る言葉に、親として何も言ってあげる言葉がみつからない。傍にいるのがとてもつらかった。
病院に運び込まれた時に、私達は涙がとまらなかった。なんとか出来ないものだろうか? その心の空白を埋めることは出来ないのだろうか?
考えに考えて、一つの考えにたどりついた。
何年いやあと何ヵ月の命、ひとつでも真一の心に何か思い出を残せないものかと。無理を承知で何回も学校に足を運んだ。そのかいあって学校に通えることになった。
そして友達ができたとをうれしそうに、はにかんで話してくれた。「あなた達と行った遊園地、帰ってから楽しそうに話してくれたのよ。」思い出したように、静かに微笑む。
ジェットコースターを何回も元をとるために乗ったことや、かつ丼を二人揃ってかっこんで美味しそうに食べたり、同級生の女の子と二人で観覧車に乗ったこととか。真一は今まで見たことがない表情で、嬉しそうに話してくれたのよ。
(改めて真一の母から聞くと恥ずかしい)
真一は、この病気に負けていられないと言ってた矢先に熱出して・・・母の目が潤んでくる。
(この人は、今までどれだけ涙をながしてきたのだろう)香枝は自分の母親とあまり年が違わない、目の前の女の人が心から気の毒に思った。
今は病院にいて2、3日したら家に戻ってくるらしいので、また来ますといって帰った。
しばらく香枝と進は沈黙のなか黙々と歩いていた。
ふいに、進が口を開く
「なんか、気が重いよなあ。もう真一とは、かかわらない方がいいんじゃないか」
「・・・‥」
「おい、なんか言えよ」
「私たちは戻れるところがある。でも、真一は逃げられない。死ぬまで、病気と戦わなくちゃいけない」
「なんだよー。香枝。俺だけ悪者かよ。」
「そうじゃない。確かに私たちが真一にこれ以上関わることは、とても苦しい。真一も、苦しいかもれない。でも友達として真一のなかに、何か残せたら。そういうのって自己満足かもしれない、でもでも・・・それでも」人間って、便利だよね。涙が、溢れてくる。そう。無理にいいたくないものを代弁してくれる。