第七話
葬儀社が訪れるまでの間、和室にあの子の体を移して腐敗が進まないように保冷剤で応急処置をした後、わたしたち一家は努めて普通に過ごした。普通に昼食を摂り、普通に出かけ、普通に食卓で茶を飲んだ。父のヘッドフォンの修理の手続きやら、ブラックフライデーの買い物やら、あの子の旅立ちには相応しくないことばかりしていたような記憶がある。
誰もいないとき、わたしはなるべくあの子のそばで過ごそうとした。最期に一番一緒にいてやれなかったのはわたしだ。その自覚があったから、葬儀社が来るまで、少しでも長くあの子のそばにいたかった。
なるべく心を揺らさないように努めながら、わたしはあの子の頭を撫でた。死後硬直で硬くなった手足に、冷たい頭に改めてあの子は死んでしまったのだという現実を突きつけられて心が痛かった。
どうしようもなく、涙が溢れてくる。悲しくて悲しくて、涙が止まらなかった。
葬儀社から三十分早く着くという連絡が父の携帯にあった。それを合図に和室に家族が集まり始めた。レオにも最期のお別れをさせたけれど、レオにはあの子が死んでしまったということが理解できているのか、どうにも怪しかった。父は号泣していた。母も妹も泣いていた。
そうして最後の時間を過ごすうち、インターホンが葬儀社の訪いを告げた。十六時半より少し前のことだった。あの子を渡したくない。そんな思いが脳裏を過ぎったけれど、そんなこと叶うはずもなかった。
あの子の体が葬儀社へと引き渡され、一緒に燃やすためのおもちゃやお菓子を探して家の中がばたばたとした。あの子はレオが来てから、長らくおもちゃで遊ぶという習慣がなかったため、わたしが以前にお見舞いに買ってきた高級チーズを一緒に荼毘に付すこととなった。
あの子の亡骸が横たえられた葬儀社のバンの後部席は暖かかった。あの子の体を燃やすために、オーブンで余熱をするように道中で車内を暖めてきたのだと思うと恐ろしかった。
最後に全員で順番にあの子にお別れを告げた。父は最後まであの子の姿をスマホでカメラに収めていたけれど、もうどこも見ていないあの子の目が恐ろしくて、わたしにはどうしてもそうできなかった。
わたしはあの子の顔に自分の顔を擦り寄せると、頭に口付けを落とした。ばいばい、チョコ。ばいばい。その言葉が適切なのかどうかわからなかったけれど、あのときのわたしはそう言うことしかできなかった。
バンの後部扉が閉められ、火葬のために車が去っていった。わたしたちは深々と頭を下げ、それを見送った。体についていったのか、家の中から気配が一つ消えたような気がした。
家の中に戻ったわたしたちは、火葬の間にケージの改装やあの子が使っていた道具たちを片付けていった。おそらく全員が全員、何かをして動き続けることでしか、ぎりぎりな感情を保っていられなかったのだろう。
あの子と最期の別れを告げてから一時間半。あの子は葬儀社の人に連れられ、白い骨になって我が家に戻ってきた。骨はとても小さかった。
これが頭蓋骨で、これが下顎で、と葬儀社の人はあの子の骨を一つ一つ説明してくれた。けれど、その小ささと儚さしかわたしの頭には入ってこなかった。
遺灰の入ったネックレスと犬歯を二セット受け取ると、父はあの子の葬儀でかかった費用をカードで支払った。そして、わたしたちは低頭すると、葬儀社の車を見送った。